第1章 File:1
車内は微かに聞こえるモーター音のみ。
は窓の外をやや物珍しげに眺めていた。
通り過ぎる高層ビルやすれ違う車。建物の隙間から見える小さな空を飛ぶ鳥たち。景色の殆どは偽装、それが当たり前の世の中だ。
「外は珍しいか?」
運転しながらチラと隣に視線を送るもは相変わらず反応しない。
行き先を自宅に設定し、運転をオートモードに切り替えてハンドルから手を離した。
「。」
呼びかけに答えるかのように反応を示すだが、外を眺めるのをやめて視線を車内に戻し俯いただけだった。
思わず狡噛もため息をつく。一向に会話すらできない。
仕方ないのでセラピーを受けた施設からの資料に目を通す。
だがそれも資料としての意味を成さないほど内容に乏しい物だった。名前と、体の具合は悪くないことと、潜在犯から追われていたにも関わらず色相はクリアカラーであったこと。
非常にタフな精神であることが施設からの見解である。
だが狡噛は引っかかっていた。それだけクリアな色相を持っていながら彼女はどうして沈黙を続け、明らかに具合の悪そうな顔をしているのか。
全体的に痩せ細っているので食事でうまくカロリー摂取もできていなさそうだ。それに睡眠もよくとれていない。
「腹は減ってないか?」
こういう場合、核心に迫るような質問は避けて相手が心を開くのを待つ方がいい。というのは征陸の教えだ。
だが質問が合わなかったのかやはりは黙ったままだった。
まさにお手上げだった。だが彼女は間違いなく犯罪思考の高い連中に追われてた。数名は逃したので彼女にとっての脅威はまだどこかをうろついている。
連中は必死に彼女を追っていた。つまりはこの物言わぬ少女が何か鍵を握っている。
はなぜ危険を侵してまで逃げる必要が合ったのか。
「は、何に追われていたんだ?」
彼女が話すまで待ちきれなくなりつい口から出てしまった。
が目玉だけを狡噛に向ける。その姿にゾッとした。
何か答えが聞けるものと思ったが結局車内で彼女が口を開くことはなかった。