第5章 File:5
なんとか夜が明ける前に帰ってきた。
フラフラとして足がしゃんと動かない。車は自動運転ができるからどうにかなったものの、自らの足で帰っては来られなかっただろう。それぐらい真っ直ぐ歩けない。
頭のふわふわとした感覚を心地よく思いながらリビングの明かりをつけると誰も居なかった。間もなく朝になる時間だ、居候は既に寝ているだろう。あちこちに足をぶつけながら寝室の扉をようやく開けると、リビングの明かりが帯状に差し込んで居候の寝顔を照らし出す。大人しく寝ていれば普通の少女だ。顔の作りは大人になりかけているがまだ少女だ。
その少女が爆弾も同然で、いつ暴れるか分からず腫れ物に触るように扱わなければならないうえに愛想もない。そこに期待もしてはいないが寝顔を見るだけでも今日酒で流した悩みが押し戻されてきた。
きつく締めたネクタイを緩め、スーツの上着をソファに投げ、その上にベストも投げ置く。いつもならすぐにハンガーにかけて片付けるのだが今日は兎に角面倒くさい。起きてからでもいいと思っているのかもしれない。
ベッドに腰を下ろして寝顔を眺めると不安がこみ上げてきた。近いうちに彼女はどうなってしまうだろう。人のためになる仕事だと思って公安局に入ったが彼女は救えないかもしれない。
倒れるようにの胸に頭を乗せた。心臓の音は確かに聞こえる、普通の人間だと思いたい。
はドアが開いた段階で意識はあったが、いつになく珍しい行動にでた黒髪の男を不思議に思い目を開けた。
眼前には短いつんつん頭が寝息を立てている。敷布と間違えられたのだろうか。その黒髪をさらさらと手で遊ぶと煙草の臭いが飛散したので思わず眉を顰めた。息を止めて顔を背け、思い切り鼻から吸うがすでにそこら中に広がっていて意味はなかった。さらに胸の上でもぞもぞと寝返りをうった煙草臭い黒髪の頭は今度は向かい合うように顔を向けていた。目は薄っすら開いている。目を開けて寝ているかと思ったが瞬きしていた。
「悪い、起こしたか…」
口を開けば今度は酒の臭いが飛散する。にとっては嗅いだことのない異臭で耐えがたかったが当人にそれが気づかれてはいけないと思ったのか平然を装った。
そして気を反らすために自分の端末で時間を確認する。
「遅かったんですね。」
「ただいま…」
ぼんやりと虚ろな目が長い睫毛に隠れている。
