第4章 File:4
「いやいやそんな訳が、そんなそんなそんな!」
佐々山がこれほど動揺する姿はなかなか見られない。ベテランの征陸といえどまだ空いた口が塞がらない状況にある。
「感情的になると生えてくるらしい。その度に毟りとって背中は傷だらけだった。」
「じゃあコウは本当に背中から生えてるところを見たのか?」
「ああ。じゃなきゃこんな馬鹿げた話するわけないだろ。」
確かにこんな幻想染みた話をするタイプではない。
あまりにも不可思議な実態にまだ和久にも報告できていなかった。ここだけの話だと狡噛は釘をさした。
話が広まれば彼女はどこに連れて行かれるか分からない。
最悪更生施設の奥に監禁だろう。人と違いすぎる存在をこの国の人は良く思わないからだ。
佐々山は新しい煙草に火を付けて一口ふかした。
「いやあでもまぁ、夢があるなあ。人の背に翼が生えるってのは。」
「人間は昔から空に憧れを持ったからな。いつの時代も飛びたがるやつは大勢いる。」
「飛行機じゃだめなのか。」
「お前にロマンはないのか?」
「無くて悪かったな。」
「自分だけの翼で空を飛ぶんだぞ?子供の頃に空飛ぶ夢とか見なかった?憧れるだろ、自由に飛べたら…」
自由に飛べたとして特に行きたいところもない狡噛にはよく分からなかったが、確かに子供の頃は好きだったアニメやゲームの主人公にでもなったかのように空を飛ぶ夢は見たかもしれない。
「しかし、本当に飛べるとしてどうやって飛ぶんだろうな?鳥と人じゃ体の造りが違うだろ。」
「人の大きさで翼をつけるとなると、相当大きな翼と厚い胸筋が必要らしいな。」
征陸はすぐに調べたらしくネットの情報をそのまま読んでいた。
それが本当だとしたら彼女は最後には全く人ではない姿になるのだろうか。
「ある意味見てみたいねぇ、人が鳥になるところ。」
「彼女は人でいることを望んでるんだ。」
「その割には普通の人でもなかったけどな。」
佐々山は最後にを見た時を思い返していた。
あれが最後であり最初だ。瞳孔を開いて発狂しながら猛スピードで突進してきたあれはまるで猛獣だ。
「それでもどうにかしてやりたい…。」
「ならお前が嫁にもらえよ。戸籍はできるしハッピーエンド。」
「佐々山…」
このふざける男の発言にやや疲れるも、そういう方法もあるのかと納得した部分もあった。
