第4章 File:4
その日の事件はサイコパス既定値超過警告のあったエリアの調査や行方不明者の捜索を解決して終わった。時刻は深夜を回る。
「コウ。」
勤務明けの征陸は晩酌に付き合えと誘ってきた。
今どき本物のアルコールを持っているのは彼ぐらいなのではないかと思うほど珍しい酒を隠し持っている。
それに興味があるわけではないが執行官との交流は大切にしていたので了承した。
しかし官舎の部屋に案内されるかと思えば一係の刑事部屋に連れ込まれそこには一係の佐々山執行官の姿もあった。なんとなく魂胆が見えた狡噛は去ろうとしたが征陸の分厚い手に拒まれた。
「いいから少し付き合えって。」
狡噛は一気に機嫌の悪さを全面に押し出したが佐々山はそれすら面白がっていた。
「なんで佐々山がいるんだ。」
「俺だって誘われたんだよ、秘蔵酒で一杯どうだって。つーかここ一係の部屋だから。」
確かに。何も言えなくなった狡噛はソファに腰掛けて征陸の酒を待っていた。これがなかなか時間がかかり、グラスから氷の大きさからきめ細やかなと言えば聞こえはいいがとにかくこだわりが強い。
「で、最近どうよ例のお嬢ちゃんとは。」
佐々山の口に咥えられた煙草から煙がゆらゆらと漂う。
狡噛はそれをあからさまに手で払うと、佐々山はわざと顔面目掛けて煙を吐き出した。目に染みて涙がでる。
「何もない。何も進まなくてお手上げだ。」
「まだ進んでねぇのかよ!チューぐらいしとけよ!」
「は?」
こいつはなんの話をしているんだ。そもそも彼女は保護対象だ。しかも誤ってでもそんなことになれば噛みつかれるかもしれないほど根は凶暴だ。
「やめとけ光留。コウも苦労してるんだ。お前だってこの疲れっぷりは見れば分かるだろうが。」
佐々山は跋が悪そうに首の後ろをかいて、煙草の灰を灰皿に落とした。
「廃棄区画で追いかけられてるところを保護しただけだろ?返しちまえよ。どうせ社会復帰なんて無理だぜ。」
「……。」
狡噛自身もそれが難しいことは分かっている。無戸籍者が戸籍を取得したところで育った環境や経歴が変わるわけではない。今から学習し直して職業訓練を行ってもあまりよい結果は望めないかもしれない。
佐々山は煙を深く吸って細く吐き出した。
征陸はグラスとアイスペールと酒瓶を持ってきて狡噛の隣に腰を下ろす。