第4章 File:4
をまだ一人で歩かせたことはない。それに昨日の今日だ。一人のときにまた狂いだせば周りのサイコパスを悪化させかねない。だからといって過保護にしすぎても彼女の自立を妨げてしまう。
狡噛は悩んだ末に答えた。
「わかった。気をつけて行けよ。何かあったらすぐ連絡しろ。」
「はい。ありがとうございます。あと…」
「なんだ?」
は言い出しづらいのか沈黙した。この長い沈黙にもなれたが先が気になりすぎるのでつい聞き返してしまう。
「昨日はすみませんでした。…昨日も。」
小さくなる彼女の声に胸を締め付けられるようだった。
いつも暴れては何も解決できず進展もできない。
それに悩む姿は彼女にも映っていたかもしれないと思うと情けなかった。
「気にするな。の方こそ大丈夫なのか?」
「よく…わからないです。大丈夫なのかどうか。」
「外では特に気をつけろ。は色相が濁りにくいが皆が同じとは限らない。平常心を保って行動しなさい。」
「はい。では失礼します。」
通信が切れると公安局内の廊下はやけに静かで冷たく感じた。彼女の今後は自分にかかっている。
は自立のために踏み出した。俺もやらなければ。
狡噛は調査ファイルにあるの画像を開いた。保護当時の写真のため薄汚くギスギスして不健康そうな顔をしている。たった数日の経過だが今はもう少し血色がよい。最新の姿を脳内で投影させると何か温かい気持ちがゆっくり湧いてくるのを感じた。大きいが子供を持つ親の気持ちなのだろうか。心配と期待とあと一つ何かを絡めた複雑なソレを狡噛はただ感じていた。
区役所も窓口は全てドローンが対応していた。同じ顔の女性型のホログラムで統一され、用事がある者は順番がくるのを静かに待っていた。
は整理番号をとってベンチで待とうとしたがその必要もなく順番は直ぐに回ってきた。
戸籍の申請は細かく分類分けされていて、無戸籍者の戸籍登録の問い合わせはほぼ無いに等しい。よって、常に暇である。受付ドローンに番号を呼ばれてはすぐ前まで行った。
『どうされましたか?』
「あの、戸籍がないので登録したいのですが。どうしたら良いですか?」