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BERKUT【PSYCHO-PASS】

第4章 File:4


狡噛の中で小さな正義が崩れたように感じた。
昨日も暴れる彼女を拘束してでも宥めさせ、どうにか一人前に生きられるようにしてやるんだと自分に言い聞かせながらやってきた。

「それは、俺の仕事が遅いからですか?」

「違います。このままでは君の精神が先にやられてしまうからです。」

そもそも廃棄区画内の出来事をわざわざ掘り返す必要もない。当時街頭スキャナに掠った人物も執行した。一人は逃したものの、それ以降とくに変わったことも起きていない。逃した一人を追ってオフラインの多い廃棄区画に入れば監視官の身も危ないのだからこの案件は既に重要でもなんでもないものとされるのが普通で言わば狡噛がただ知りたいだけなのだ。

「ですが、が何者かに不正な手術や実験を強要されたのは事実です!」

「ではその旨、彼女から通報を受けましたか?」

狡噛が次の言葉を並べる前に和久は透かさず放った。意表を突かれ狡噛は何も言えなくなった。言っても無駄に思えた。
確かに彼女からそれについて悩んでいる、もしくは訴えるということは聞いていない。

「いえ…ですが彼女は長く廃棄区画で隔離されてきたと思われます。恐らく訴えるという概念もなく…」

「いいえ、彼女は自分は危険だから殺してくださいと言っていました。訴えることはできるのです。できるのにしないのです。もし、そういう概念がないと思うなら狡噛君が教えてあげなさい。それで彼女が訴えるというなら話は変わります。」


だが彼女に何があったか聞こうものなら暴れる始末。訴えるまで正常な会話が維持できるかもわからない。

「分かりました。確認して、彼女が訴えを起こさないのであれば終わりにします。」

和久はその返事に満足したのか狡噛の肩に手を置くと、執務室へ戻っていった。
本人がいなくなったあともその手の重みが消えない。
にどう話せばいいだろうか。調査が終われば保護の必要もなくなる。行き場のない彼女はまるで釣った魚を返すように元の場所に放さなければならないだろう。それが本当にのためになるのか、そんなわけはないと信じたかった。
そんな時にから着信が入った。震えそうになる声をどうにか正して応答する。

「どうした?」

「狡噛さん、区役所に行って戸籍申請について話を聞いてこようと思うんですけどいいですか?」
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