第4章 File:4
狡噛がを保護して数日が経った。彼女にベッドを譲りソファで寝るのも慣れたが起きる度に身体が軋む。食事も腹が空けば自ら取るようになり、自殺の心配はなくなるものの突然狂い出すのは未だにある。決まって事情聴取だったり彼女の身の上話を聞いて二〜三質問すると起こり、酷いときには奇声を発して暴れまわる。それもかなりの力で暴れまわるので狡噛といえどいつも全身全力で止めなければ治まらなかった。社会復帰は難しいかもしれないと頭の片隅で思い始める。変わった体質のせいで養護施設へは送れないし、そもそもこの精神状態で社会に放りだせば他の人間のサイコパスが曇るかもしれない。そうなれば結局仕事が増えるだけだ。それならまだ自分の目の届く所で見張っている方がよいのかもしれない。ある意味潜在犯より扱いにくかった。更生施設にいてもある程度の領域までいくと狂い出す者もいると聞くが彼女の場合はクリアカラーを維持している。多少曇ることはあってもすぐに回復する。これが規定値を逸脱でもしてくれれば施設に入れることもできるのだが、とあらぬ方向へと考えもした。
「コウ、お前大丈夫なのか?」
出勤するなり征陸は狡噛の顔色の悪さに酷く驚いていた。
日に日に憔悴していく若き監視官のあられもない姿は見ていて痛ましいものがある。
「ああ。昨日も家で話を聞こうとしたら暴れだしてな、落ち着かせるのに苦労した…」
席に座るなり肩をぐるりと回したり伸びをしたりと疲れが残る体をなんとか動かす。
「ドミネーター持って帰ってパラライザーでも撃てばいいじゃないですか。」
昏田が嫌味っぽく言うがそれに付き合う程の余力も狡噛には残っていない。ドミネーターの持ち帰りは無論、彼女は犯罪係数の逸脱も見られないから向けても意味がなかった。
「それができたらまだ楽なんだが…」
普段の精神状態なら狡噛の口からそんなことが発せられることはないだろう。それだけ事は深刻なようだった。
それでも彼のサイコパスもそれなりにタフなだけが救いだった。
「狡噛君。」
「はい。」
和久からちょっと来るようにと無言で示される。
執務室を出る彼に着いていくと、廊下の途中で止まって振り返った。
上司の顔はあまり穏やかそうではなかった。
「狡噛君。彼女の調査だけど、取りやめようと思う。」
「!?」