第1章 File:1
「そう簡単に行くかね…」
征陸は狡噛の隣でまだ小さくなっている少女を見た。
彼女ははっきり言って普通ではない様だ。
青白い肌と目元には大きなくまができていて色相は健康でも体がそれを表してはいない。
「お嬢ちゃん、名前は言えるか?」
征陸が少女を覗き込むようにして尋ねるが顔をピクリともさせない。黙ったままだ。
困り果てる征陸に天利は「とっつぁん!名乗るなら自分から、だよ!」と言うとそれはそうだと先に名乗った。続けて天利と花表が。昏田の分は花表が改め、流れで和久と狡噛も名乗った。
少女は暫く沈黙したが少しだけ目を動かした。
「、…です。」
ようやく発声した彼女に天利は感激して手を叩いた。
問いかけに答えられることが分かったところで本題に戻る。
狡噛が彼女の身元引受人で良いかということについてだ。
和久はにどうかと問う。
はただ頷いた。特段嫌がる素振りもない。それどころか生きる気力も感じられない。
狡噛は少女の頭をくしゃと撫でた。
「不安だろうが、安全は保障する。仲良くやろう。」
はそれに対しては何も答えなかった。
「本当に安全かなあ?」
昏田は悪戯に笑いながら言ったが花表は昏田よりはマシだと答えた。
監視官は激務だ。家にいる時間は少ない。一緒にいるときは事情聴取となるだろう。
「一先ず、送ってきます。」
「うん、悪いけど一通り終わったら戻ってきてもらえますか?」
進めなければいけない調査や書き終えていない報告書もある。そのまま上がっていいよと言えずすまないと和久は困った顔をするが、狡噛にとっては寧ろ好都合だった。
物言わぬ少女と過ごすのは捜査よりエネルギーがいるだろう。
「はい、なるべく早く戻ります。」
「私も狡噛さんち行ってみたーい!」
「面白そう!」
天利と花表が盛り上がるのを昏田がつまらなそうに眺めていた。
狡噛が断ろうとした矢先、和久が執行官に待てを命じて事無きを得る。
「行くぞ。」
の背に手を当てて誘導し、二人は駐車場に向かった。