第3章 File:3
真流本人ですら自分がおかしな事を言っている気になった。
まず生き物は他の生き物の遺伝子をもたない。種類が違うのなら尚更だ。
だかこれは確かにまだ未成年と思しき少女の背から生えた羽根から出た結果だ。二人とも幻想は信じないがデータは信じる。
「さらにこれだ。」
今度はをスキャンしたときのレントゲン画像。
これを見てどう思うか、真流は問う。
狡噛は無言で観察するが違いにはすぐ気が付いた。
「腎臓が一つ足りない。」
「そ、まぁ売られたってのが妥当だろうな。もう一つあるぜ、分かるか?」
「んー、…。」
「ここだよここ。」
真流が差したのは下腹部だ。そこには変わったものは写っていない。そう、何も写っていないのだ。
「子宮か!」
「御名答!可哀相だが彼女は一生自分の子供は望めない。」
子宮を摘出されるというのが女性にとってどんなものなのかは狡噛には分からない。だが家族のいない彼女がこの先も血縁を望むことは許されないとなると同情した。
そして真流がを呼ばなかったのは恐らくこれが分かったからだろう。
「でもな、分かったのはここまでだ。あとは彼女の供述か記憶でも掘り起こさなきゃ何もわからねえ。とりあえず、イカれた天才が何か企んでるのは間違いないだろうな。」
人にイヌワシの遺伝子を移す神業を成功させたとなればゲノム編集や遺伝子組み換えの最先端だ。
そして開発した天才はその使いどころを完全に間違っている。
「真流さん、今から十五年以前で成果を出した名医や遺伝子関連の研究者を出してくれるか。生きてるやつも死んでる奴もだ。」
「おっと、そいつはもう終わってるぜ。研究者のリーダー格まで落とし込むとざっと三百弱はいる。この中にいればラッキーだな。」
真流は収集したデータを狡噛のデバイスに転送した。
「メモリー・スクープはなるべく避けたい。まずはこれを当たってみるさ。」
狡噛はデータを確認して一旦閉じると三係の執務室へ戻った。何やらアプリで演算をやっているらしい女子の会話が聞こえてきた。
は真剣な顔で問題を解いている。
それを見る限りは普通の女の子のはずなのだか。
内臓の欠けた画像が脳内に蘇った。気の毒でしかない。そして恐らくは彼女はそれを知らない。このまま知らせないべきか、狡噛には判断がつかなかった。