第3章 File:3
「何か言われたか?」
「…何も。」
「そうか。」
は椅子の上で膝を抱えて丸くなった。
いろんな人に会って疲れも出てきたのかもしれない。
狡噛は脱いでいたジャケットを上から被せるとは潜るようにして目を閉じた。
その後も幸い出動が必要な事件も起きずに比較的穏やかな一日となった。夕方前には和久も上がり、狡噛と昏田と天利だけが執務室に残った。
昏田はヘッドフォンをして音楽を聞いていて、天利は一眠りし終えたと何やら話をしている。
溜め込んだ事務作業も夜になる前には終わった。
「狡噛さん!この子天才かもしれません!」
天利はにやらせた簡単なIQ診断の結果を見せてきた。
「180…すごいな…。」
「ちゃん、刑事にも向いてるんじゃないですか?」
「そうかもな、でも職業適正はシビュラに任せればいい。」
今は将来は何になるか、そのためにどうするかで悩む必要はない。それぞれに見合った適性が出されらそれに属するのみ。幸福な人生を送るためにはそれが当たり前だ。
「ちゃんはどんなお仕事に興味ある?」
は首を傾げた。仕事と言われてもピンときていないらしい。人身売買で売られて来たなら如何なる選択肢も彼女は与えてもらえなかったのだろう。もしかしたら隔離されて育っている可能性もある。
そんなとき狡噛のデバイスに真流からメッセージが入った。
一人でこいと。
「天利、を見ててくれるか?ちょっと真流さんのとこに行ってくる。」
「いいですよ!ちゃんの社会復帰のために天利先生がお勉強を教えてあげます!」
かなり不安が残るが狡噛は分析室へ向かった。
真流は狡噛が来るなり待ってましたと言わんばかりに資料を広げた。
「悪いな、真流さんも忙しいのに。」
「いいや、今日は暇な方だからな。まぁこれを見てくれ。」
真流が一番手前に持ってきたのは鳥の写真だった。猛禽類だ。鷲なのか鷹なのかは分からないが凛々しい横顔だった。
「彼女の羽根の遺伝子を追求するとこいつと全く同じ形をしていた。」
「これは?」
「イヌワシだ。」
「イヌワシの羽根があいつから生えようとしてるのか?」