第3章 File:3
青柳は額を拭ったそれでついでに手近に飛散した汁も拭いた。その間に狡噛は食べ終えて「ごちそうさまでした」と再び手を合わせる。
それをみても食べるスピードを上げて最後の一口を口に入れると頬を膨らせたまま手を合わせた。
青柳はまるで生き物を愛でる様な目で彼女を見ていた。
「行けるか?」
は口元を抑えて頷いた。
「じゃあな青柳。」
「はいはい、お疲れー。」
それぞれが自分の使ったお盆を返却口へ戻し、三係の執務室へ戻った。
狡噛は再び仕事に戻る。は隣で静かに座っていた。
「。」
「はい。」
「サプリメント飲んだか。」
言われて思い出した。朝もらったサプリメントをシャツのポケットから取り出す。包を破いて口に入れてから水がないことに気がついた。
「水なら給湯室にある。食堂から来る途中に通っただろう?」
狡噛はこちらを見てもいないのに手元を動かしたまま淡々と説明した。頭の横にも目がついているのではないかと思う。
は椅子から降りると執務室を出て給湯室に行った。
暗いので誰もいないと思ったが一人がコーヒーを淹れていた。
朝に少しだけ見た眼鏡の監視官。一係の宜野座だった。
宜野座はを異物でも見るような目で見ていた。廃棄区画の人間と関わらないようにしているのなら仕方のない反応だろう。しばし無言の睨み合いが続いた。は意を決して狭い給湯室に入り、なるべく彼の服にも触れないように慎重に進み冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出して急いで出た。逃げるように三係の執務室へ入るとすぐにボトルのキャップをあけて水を流し込む。唾液で溶けかけていたサプリメントをようやく飲み込めた。
「大丈夫?」
慌てて戻ってきたを天利が心配そうに見ていた。
その声を聞いて狡噛もやっと顔を上げる。の表情はとくに変わらないが何かあったのだろうかと心配はしているようだ。
「どうかしたのか?」
は首を横に振るとまた自分の椅子に座った。
「佐々山にでも会ったのか?」
「…さっき怒ってた人の方です。」
「ああギノか。」
一部の執行官からガミガミ眼鏡と言われるほど頻繁に怒る姿が目撃される宜野座。彼女にも怖い人のフラグをつけられたようだ。