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BERKUT【PSYCHO-PASS】

第21章 理想郷を求めて


申請には時間がかかった。外で待つ間、穏やかな景色を見つめていると聞こえるはずのない声まで聞こえてくる。昔は嫌で堪らなかったその声も今ではまるで話し相手だ。少しずつその存在を受け入れているのかもしれない。
出てくるときに花城にも言われたがいっそのこと永住しようか。もしもここに居場所があるのなら、許されるのなら。転々とする生活ではなく留まる生活がしたい。



夜は旅の中で覚えた料理を振る舞った。その昔は部下にただの野菜炒めもゲロマズだと言われたが恐らく今度は大丈夫だろう。生きるために必要となれば勝手に身についた料理。だが残念なことに美味しいとも言われなかった。そういえば親友にも味覚音痴を指摘されたことがあった。人とは感覚が違うのかもしれない。
食事の後は石を焼いて風呂を沸かす。原始的だが嫌いじゃない。焼いた石を風呂釜に入れて温める。順番に入ったら、寝る前にテンジンと少しだけ日本語の練習。本も終盤に入った。彼女は覚えがいい。テンジンが眠りについたら、外で一服する。青白い夜空をぼんやりと眺めながら、自分の中に取り憑いた奴の声を聞く。と、花城が外に出てきた。彼女は雑賀教授の元で学んでいたことがあるらしい、狡噛の内の声を次々と詠み当てた。正直驚いた。だが彼女に声に出してもらったことで自分の思うことを再認識する。

帰れるものなら帰りたい。でも社会がそれを許さない。シビュラシステムに支配されない日本だったら恐らくあのまま留まっていた。むしろ猟奇殺人を働いた奇人を殺したところで大きな罪には問われなかったかもしれない。それも昔の話。実際はそうではない。今頃皆は自分のことなんて忘れているかもしれないし。

「それはあなたがそう思っていてほしいんでしょ?」

そうかもしれない。多分そうだ。花城は次々とキツイ言葉をかけてきた。本当の事だ、図星だ。聞いていて少しだけ苛々してしまう。流すように聞いていると終いには煙草のニオイを嫌がって家の中に戻って行った。小さくなった煙草を携帯用灰皿に潰して入れる。月が雲に隠れて光がなくなり、強い風が吹く。その風はベールクトが連れてきたもので、陰ったのも頭上近くを飛んだせいだった。姿を見るのは何日ぶりだろう。翼の調子は良さそうだ。ベールクトは大きく旋回して少し離れた丘の上に降りた。
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