第21章 理想郷を求めて
花城はシビュラシステム導入時に帰国を拒否された日本棄民の調査のために訪れたという。狡噛に会いに来たのはそのついでらしい。が、テンジンがいることでついででは無くなる。彼女は日本棄民の子供であり、調査対象でもあったからだ。三人は家の中で話した。
「ところであのうるさい怪鳥は誰が飼ってるの?」
「ベールクトはあんたを警戒して騒いでいただけだ。いつもは静かだよ。」
「そう、それは失礼しました。」
狡噛が花城を家に入れるのを見てベールクトは鎮まった。
花城は調査内容について詳しくテンジンと話した。日本棄民の中でも色相をチェックして良好な者は、今後連れ帰る事もあり得るという。テンジンはそれを頑なに断った。日本人であった父を見捨てた日本に戻ることはないと、生まれ育ったのはこの国なのだからと。
それは当たり前の答えだろうとも思う。と、今度は慌ただしくバイクのエンジンが近づいてきて、キンレイが勢いよく入ってくる。
「狡噛っ!……?誰だ!この美人は!!」
「あら嬉しっ」
絶対にそんな用事ではなかっただろうに花城が目に入ると、全て興味が持っていかれたようだった。
「どうした?」
狡噛は一応返事する。
駅で同盟王国軍の補給部隊が襲撃されたらしい。援軍を要請しているが到着に時間がかかる。傭兵として実力のある狡噛の助けが欲しかったようだ。
「なら私の4WDの方が早い。」
花城が運転を名乗り出る。
「よし、頼む。」
テンジンが自分も行くも言い寄るが狡噛は強く反対した。
キンレイと狡噛は花城の車に乗り込むと現地に向かった。そこは小さな戦場と化し、負傷者も数名出ていた。狡噛もすぐに銃で応戦する。よく見ると敵の中には子供も混じっていた。そんなものこれまでとくと見てきたが、どうもテンジンが銃を持つところまで想像してしまう。不要な殺しは避けたい。若者が一人、狡噛に向かって銃を向けるも先に撃ったのは狡噛の方だった。腰を抜かす若者を見ると、これ以上恐ろしい思いをさせるわけにはいかない。きっと彼も被害者なのだ。銃口を向けるのを止めた。彼はホッとしたように見えた、戦意はないだろう。何故そんなことを思ったのか分からない。分からないがそれは甘かった。いつもならそんな甘さを戦場で出したりはしないのに。気づくと腹部や首に銃弾を受けて狡噛は倒れた。もう起き上がれない。再び銃を握る力もない。
