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BERKUT【PSYCHO-PASS】

第21章 理想郷を求めて


傭兵はあまり好かれない。なのにこの男は分かっていて治療したというのか。

「あぁ。」

「俺は元軍医だ。今は隣町で小さな診療所をやってる。あんたみたいなやつもたくさん診たよ。」

男は壊れたキャスターのついた椅子を持ってきて狡噛と向い合うようにして座った。

「日本は平和だって聞く。なのになんでこんなところにいるんだ?」

狡噛はポケットからタバコを一つ出して男に差し出した。だが断られたのでそのまま口に加えて火をつける。肺まで深く煙を吸い込んで吐き出した。

「平和だよ、確かにここよりは。でも俺はあそこで生きられなくなった。」

「逃亡か。」

「そういうこと。」

再び煙を出そうとしたところに女の子が来たので顔を背けて吐き出す。女の子は瓶を抱えていた。

「できたか。」

「うん。」

その瓶は男の手に渡り、狡噛に差し出される。
中には今朝みた植物が入っていた。

「あんたの持ってた小連翹を酒に漬けておいた。消毒薬の代わりになる。」

「そうなのか…?」

「なんだ、知ってて持ってたんじゃないのか?」

「いや、気づいたら足元に置いてあったのをなんとなく持ってきただけだ。」

誰が置いたのだろう。まさかと思うがあのベールクトがそんな気の利いたことをするとも思えない。

「きっとベールクトが置いてくれたのよ。」

少女のその言葉に狡噛は目を見開く。子供の想像力とは無限だ。だが彼女が言うなら想像ではなくて本当にそうなのだろうか。だとしたら考えてみるとあの鷲に救われたのは今回が初めてではない。

「俺はあいつに餌もやってないし、特別なことはしてないんだけどな。」

「でもわかるよ。あの子はおじさんに懐いてるって。」

「案外自分の知らないところで救われて恩を感じてるのかもな。」

男は少女の頭を撫でて言った。少女も何度も頷く。それならそれでいいかとも思った。気づけば脚の痛みも和らいでいた。

やがて男と少女は自分の町に帰っていった。ここもあまり安全とは言えない場所であることと、男はやはり娘を安全な所へ置きたいと思う。当たり前だ。狡噛は一日様子を見てから発つ事にした。長いこと野ざらしになっているベッドの砂埃を払い、キャビネットから見つけた少しはキレイなシーツを上からかけた。それから使えそうな薬品や備品を探して少し拝借した。
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