第21章 理想郷を求めて
男が顔から手を離した一瞬、目玉がくり抜かれたようになって血で染まっているのが見えた。更にそれを聞きつけて二人の男が集まる。一人はゾンビのようにうろつく男の傍に駆け寄り、一人は狡噛の仕業だと思い殴りかかろうしてきた。が、その今まさに目の前にいた男が消えた。念の為に体を構えていたが、対象が消えるので狡噛でも思考が追いつかない。
「ああああああ!」
その消えた男の声が遠くでする。狡噛は空を見上げた。暗闇に何かいる。消えた男が落ちてきた。途中で悲鳴は止み、地面に叩きつけられた。飛び散る血液が服や顔にも飛んできた。目のなくなった男の傍にいるヤツは脅えて狡噛を睨む。目があった。
「っ!化け物が!」
その男は、目玉のない男の手を引いて逃げていった。
「おい!そこの路地で一人気絶してるから連れていけ!」
聞こえているのかは分からない。姿も見えなくなった。それにしてもこの地面に張り付いた肉はひどい。もう一度空を見上げた。暗闇の中をぐるぐる回って飛んでいる鳥がいる。だがバタバタと安定していない。
「あれはやりすぎだぞ!少し加減しろ!」
あれは、あの鳥は絶対に近くには降りてこなかった。いつも頭のずっと上を飛んでいて、まるで狡噛が死ぬのを待っているかのようだった。そんなただの鳥に悪態をつく。すると頭に何か落ちてきた。それは跳ねて目の前に来たので受け止める。目玉だった。驚いてい投げ捨てた。きっと鉤爪に刺さって取れなかったのだろう。それならあの暴れるような飛び方に納得がいく。もう一度見上げた。暗闇で姿はもう見えない。狡噛は脚を庇いながらまた歩いた。町外れに廃屋があったのでそこで休むことにした。
割れたランプに火を灯し、脹脛から銃弾を取り除いて応急処置をした。消毒薬がもうない。どこかで代わりのものを調達するか、分けてもらうかしたい。
だが今は休むことに徹する。廃屋に残されたベッドフレームに横になった。ここを越えた先にまた街がある。そこでチベット・ヒマラヤ同盟王国への道順を聞こう。あとニ日歩けばつくだろうか。考えながらその日は眠りについた。
翌朝。早朝に出発しようと外に出ると、積まれた草花が不自然に置かれていた。不自然にというのは、人が何か意として置いたということ。少し踏みつけてしまったが、拾い上げた。上を見上げると、ずっと高いところに黒い小さな点が見える。あの鳥だ。
