第21章 理想郷を求めて
明かりのない暗闇の中、狡噛は乾いた地面に倒れるように腰を下ろした。
ずっと歩いてきた。この町は静かだ、休むのにいいと思った。だが、日本人が来たと気づけば問答無用で銃を向けて持ち物を盗ろうとしてくる。貧しいが故の行動には少なからず同情もする。それでも旅をする彼には最低限に必要な物ばかりだ。盗られるわけに行かない。
日本を出て随分経った。
中国に入り、南下して紛争にあちこち加わり、生きる術を身に着けた。シーアンのシビュラ導入を聞き、その地域の戦いにも加わった。殺し屋集団とも相見えた。常守と宜野座にも会った。いいことも悪いこともたくさん合った。日本に同じ期間いたら、これほど多くの出来事には出会わなかっただろう。それは今も同じだ。空腹、疲れ、痛み。全て生きている証だ。下手に撃ってきた銃弾が一つ右脚の脹脛に入った。上手く力を入れられない。脚を引きずると砂の跡でバレてしまう。片足だけで直ぐ目の前の細い路地に飛び込んだ。無造作に積まれた木箱の陰に身を隠す。
全員のしてしまっても構わないが、体力をここで消耗するわけにもいかない。
(昼間に子供たちに分け与えすぎたか…)
飢えで困る子供に可哀想だからと食料を分けるなと言われたことがある。子供は囮で親が狙いをつける可能性があるからだ。それでも飢えで今日をギリギリ生きている子供たちを放ってはおけなかった。
(結局宿も取れなかった。どうする、考えろ。)
人数は確か四人。倒せなくはない。だがリスクもある。今は銃弾も切らしている。どこでも紛争の絶えない地域なのに銃が使えないのは致命傷だ。そこでさらに怪我を増やすわけにいかない。狡噛は空を見上げた。この状況でも満点の星空は変わらない。
(かけるか、いや、でも…)
迷う。だが足音が一つ近づいてきた。
(止めよう。一人ずつ片付ける…!)
右脚を立たせて、勢いよく立ち上がり、一人にジャブをいれる。当たりどころが良くなかったらしく、一発で失神してしまった。これならいけるかと思った時だった。
「ぎゃあああああ!!!」
男の悲鳴が聞こえた。さっきのヤツだろうか。
「やめろ!くそっ!」
布がはためくような音と男の叫び声が混じっている。
狡噛にはその状況に少し想像がついていた。
脚を引きずって路地から出ると男が一人、目を抑えてうろうろしている。
「見えねぇ…なにも!みえねぇよお。」
