第20章 楽園事件:11
宜野座は常守よりも前に出て、その長身でを隠すように立つ。両手で顔を包んで音を立てないように口づけた。常守からはただ黒い背広しか見えなかった。
はペンダントトップを握り静かに微笑んだ。
もうすぐ陽が沈む。屋上も少しずつ明かりがつく。
「さようなら。」
が腕を広げると直ぐに大きな羽根が飛び出して翼が現れた。開長時は三メートルを超える大きな翼を支えるために胸筋を作り、体の余分な肉は減り、骨が変形する。服のスナップボタンが全て外れる頃には人の姿ではなかった。大きな足で地を蹴り、翼を何度も羽ばたかせ上昇していく。気流に乗り、あっという間に見えなくなった。着ていた服だけがその場に残る。宜野座はそれを拾い上げた。
本当に身一つで行ってしまった。食料や道具等は何一つ持たない。強いて言えばあのネックレスをつけたままなことぐらいだ。
「私、狡噛さんの時も思ったんでんすけど…。」
唐突に語る常守はまだ空を見上げていた。
「さんもまた会えそうな気がします。きっと彼女は帰ってきます。」
「そうだな。」
夕陽が沈み、空に星が灯る。それが彼女の地図だろう。無事に海を渡れるだろうか。心配しても仕方がない。彼女は手を離れた。自分で決めて行動に移した。彼女にとってそれはきっと良い結果を出すだろうと思いたい。
宜野座には日々無事を祈るのみだった。