第20章 楽園事件:11
なら外国に出るのは止めて日本で仕事について生きるか。シビュラに管理されて、誰かに管理されて決まったものを食べて、決まった幸せを手に入れる。それが本当に幸せと呼ぶべきものなのかは分からない。結局どちらにいても分からない。
「?」
と、宜野座の声で現実な戻された気分になった。何度か呼ばれていたらしい。つい考えこんで何も聞こえなくなるのは前からだ。
「何ですか?」
ちゃんと座り直して隣に座る彼の顔を見る。心配そうな雰囲気だ。
「本当に大丈夫か?」
「何に対してですか?」
「何にって…いろいろだ。」
ならそのいろいろとは何なのだろう。聞いただけなのに少し機嫌を悪くしたような表情をされる意味も分からない。
なぜ同じ人なのに人の気持ちが分からないのだろう。
「ギノさん。」
「ん?」
「ギノさんはどうやって相手の気持ちがわかるようになったんですか?」
「え?」
「いつから分かるようになりましたか?」
「いや、相手の気持ちなんて俺にも分からない。」
どうして彼はそう言うのだろう。とてもできているように見えるがまだまだだと言いたいのだろうか。
「もう少し分かっていたら、狡噛を救えたかもしれないしな…」
「狡噛さんが助けを求めていると、どうして思ったんですか?」
「…うん。そうだな…あいつの居場所が結果的になくなったから、かな。そう言われると、本当に狡噛が助けを求めていたなんて分からないよな。」
自分の瞬間的感情により生まれる行動は相手の気持ちを考えているようで、実は自分の感情に伴ったものだ。それは必ずしも相手の気持ちにマッチするとは限らない。
「それでもギノさんは相手の内に秘めた心を読むのが上手だと思います。だから、きっと狡噛さんもその時は助けてほしいと思ったかもしれませんね。」
「最後のはフォローじゃなくて追い打ちになってるぞ。」
思わずは口を抑えた。難しい。よく考えてから話さなければなんと捉えられるか分からない。
「でもな、実際に狡噛は助けを求めたんだ。俺じゃなくて親父にだったけどな。」
宜野座の目には怒りに似た何かが写っていたが、そんな荒々しいものではない。
「それは怒っているんですか?」
「怒るというより、悔しいだな。」