第19章 楽園事件:10
「お昼まだじゃないですか?」
「あぁ、報告書が終わってないからな。」
「ちょっとお話したいことがあるので、よかったらランチしながらどうですか?」
常守はいつものように控えめに提案してきた。どのみち話が長くなるなら構わないかと思い、二人は食堂に向かった。
常守は醤油ラーメンを、宜野座はバジルスパゲティを選んだ。席につくとまず一口。胃が安心している気がした。
「昨日、どうでした?さんのお料理研究会。」
「あぁ、なかなか美味かったがな。本人は結局野菜より肉が好きっていうことが分かって満足してたぞ。」
「プッ!味じゃなくてそっちだったんですね。さんらしいかも。」
「そうだな。」
パスタをフォークで巻きながら宜野座は今か今かと常守の本題を待っていた。きっと彼女も話しづらいのだろう。だとしたらこちらから切り出してやるべきか。迷いはフォークに巻き付いてぐるぐる回るパスタに現れた。
「…あの。」
俯きながら切り出す常守に顔を向ける。
「さんの転入の話ですけど…」
「断られたか?」
「えっ!気づいてましたか!?」
「なんとなくな。」
彼女の見学と同じくして起きた今回の騒動と霜月の言動が煽ったらしい。潜在犯なのではないかと疑われ、そうでないことを説明するもとにかく入校は断ると頑なに言ってきたそうだ。
「さん、楽しみにしてましたかね?」
「どうだろうな。そこまで落ち込まないような気もするが…。まあ候補はもう一つあるんだからいいじゃないか。」
「そうですよね。」
常守の方が余程落ち込んでいるように見えた。には後ほど伝えるようなので一緒に行くことにする。それともう一つ提案があった。
「さん、どうにか厚生省の裏道を使って監視官適性出してもらえないですかね?」
その発言には宜野座も驚く。
「言葉を慎め。濁るぞ。」
「やっぱり駄目ですかね?」
「俺に分かるわけ無いだろ。」
執行官に落ちたのだから。常守のそういうところはたまに嫌味に聞こえる。
それに適性はサイコパスの計測で出されるものだ。厚生省がシビュラを管理しているからと言って適性を下しているわけではない。
「はコミュニケーション能力に乏しい。監視官は無理だろう。」
「それ宜野座さんがいいます?」