第19章 楽園事件:10
事態の収拾がつく頃には正午を過ぎていた。報告書を書き終えたら非番になる。
公安局に戻ると屋上では待っていた。ヘリポートにポツンと佇むイヌワシの姿はどこか愛らしい。宜野座は彼女の体に検査衣を被せる。羽がボロボロと落ちて真っ白の検査衣の中からいつもの真っ白なが現れた。表皮はまだボロボロだが少しずつ元に戻っていっている。体を隠すようにボタンを止めて着終えるとジャケット姿より馴染んでいるような気がした。そのジャケットと言えば護送車の傍に破れて置き去りになっており、チェーンの切れたネックレスもあったので回収してきた。確かに彼女が着るのはこの検査衣が一番利便性があるかもしれない。
「悪いな、待たせて。」
「いいえ、すみません。またご迷惑を…」
「いいや、咄嗟のの機転と能力でこちらは助けられた。霜月もこれで少し態度が変わるんじゃないか?」
「霜月さん、背中大丈夫ですかね?人を掴むのは初めてだったので力が入ってしまいました。」
「あんなもので済んだのだから大丈夫だ。落ちてたら死んでいたからな。」
「助かって良かったです。」
宜野座はを刑事部屋へ送り、自分は執務室へ戻った。
霜月が先にデスクについていて、菓子パンを食べながら報告書の作成にかかっていた。昼食をとる暇は無かった。さっさと終わらせてから食べよう。宜野座も席につくと、当直の常守が出勤した。三十分早い。
「おはようございます。」
「おはよう。」
「おはようございます。」
常守は自分の席について上着を椅子にかけると霜月の対応した案件について話していた。何事もなくて良かったと。
「宜野座さんも、フォローありがとうございました。」
「いいや、霜月が懸命に対応したからだ。だが、言動にもう少し注意は必要だな。」
「執行官のくせに偉そうに言わないでもらえます?」
霜月は疲れのせいもあり沸点が一段と低かった。それもまだ少女だから仕方ないと宜野座は割り切るようにしている。
「霜月監視官、ちょっといいですか?」
常守は霜月を連れて廊下に出た。薄いガラスの扉一枚に隔たれているだけだが会話は聞こえない。霜月の表情が少し固くなったがすぐに二人とも戻ってきた。
「宜野座さん、今少しいいですか?」
「あぁ。」
交互に呼び出されるというと、良い話ではなさそうだ。