第19章 楽園事件:10
「ドローンを要請しているがあと四分かかる。」
「絶対保たせますよ!まだまだ人生これからだってのに死なせてたまるものですか!」
まだこの女子生徒は霜月と二つ程しか変わらないだろうが、彼女の正義感は大したものだった。だが長引けば犯罪係数の上昇もあり得る。生徒の大勢いる前でドミネーターを無闇に取り出すわけにもいかない。
「あっ!」
指向性音声の霜月の声と同時に、屋上から生徒が落下…寸前で手を掴んだ。間に合った。だが体勢が良くなかった。女子生徒は足を滑らせ、霜月を連れて落下する。
「霜月!!」
宜野座が叫ぶとほぼ同時に周りの生徒の叫び声が響き、落ちる二人に何かが近づいた。それは光の加減で金色に輝く大きな翼だった。それが霜月を脚で掴むと少しずつ下降していく。ようやく頭が理解してきた。周りの生徒はまたざわめきだした。
霜月と女子生徒を降ろすと大きな翼の持ち主はすぐに飛び去った。乱雑な降ろし方で二人とも地面に倒れる。
宜野座は二人に駆け寄った。
「霜月!無事か!?」
「だから!呼び捨てしないでって言ってるでしょう!?もう!あの鳥!助けるなら加減しなさいよ!」
腰を擦る霜月。レイドジャケットに血が滲んでいた。鉤爪が食い込んだのだろう。救護ドローンを呼び、すぐに治療を受けさせた。女子生徒の方は青ざめて大人しくなっていた。上空ではが浮かんでいるのが小さく見える。どれだけ高く飛んでいるのだろう。他の生徒も指差して話題にしていた。
「本物!?」
「そんなわけないだろ!きっと公安局お抱えのドローンだ。」
「本当に?襲ってこない?」
不安と好奇心の声に答えるべきか否か。このまま飛び去って行くと不安を煽らせてしまうかもしれないと思い、宜野座は六合塚に教わった指笛を吹いた。長く高い音が空に登る。すると翼がなくなり、丸くなって弾丸のごとく急降下してきた。それは次第に大きくなり、姿が目視できる位置に来ると翼を広げた。突風のような風が吹き、砂塵が舞うので袖で防ぐ。大きな翼を何度か羽ばたかせ、は地に足をつけて翼を畳んだ。
「よくやったな。」
宜野座が羽毛に覆われた頭を撫でるのを見て周りの生徒の不安感が好奇心に変わった。
だがあまり詮索されても困る。時間を指定し、公安局に戻るように小声で伝えた。は直ぐに空高く飛び去った。