第19章 楽園事件:10
「は大丈夫だ。色相も良好で問題ない。」
「でしょうね。」
真っ白で濁りを見せない色相であることは霜月も分かっている。の色相は濁りにくく非常にクリアであること教員に説明したようだ。
「それから、セラピーの結果、女子生徒の色相に良くない結果が出ました。落ち着くまで集中ケアをするよう指導しますので、親御さんに連絡します。」
の言った通りだった。だがその生徒もケアをすれば充分に戻る余地があるという。早く対処できて良かった。そう思っていた矢先だった。職員室のドアが空き、慌てて女子生徒二人が入ってきた。彼女らの担任にあたる女性教師の元に駆けつける。
「せ、せんせい!葉月が!葉月が屋上に!」
「早く助けて!」
慌てている彼女らの言葉に担任はついていけず、まず落ち着くように伝えていた。
霜月が早足で歩み寄り、女子生徒に尋ねる。
「葉月って尾原葉月さん?」
「!公安局!!」
「なんでいるの!?」
「葉月さんがどうしたの!?」
尚も慌てる女子生徒を押し切って霜月は尋ねる。
「葉月、先生に呼び出されたと思ったら、急に屋上に走り出して…!」
一番濁らせた当人だった。未成年の突然の思いつきは全くの読めたものじゃない。
「マズいぞ霜月。」
「呼び捨てしないで!私が屋上に行きます。宜野座さんは下をお願い。万が一落ちた時の為に対策してください!」
「対策って!」
霜月は屋上へ急ぎ駆け出した。宜野座はとにかく場所を確認するのと、念の為陸上競技用のマットを教員に準備するよう頼んだ。職業訓練校とはいえ、任意のスポーツクラブがあることが幸いした。周りのざわめきは生徒たちに伝染し、誰かが自殺するらしいとあっという間に広まった。校舎は五階建て。助からなくもない。だが女子生徒の立つ位置が問題だった。真下は校舎の玄関にあたる部分で、屋根が迫り出している。ぶつかれば最悪死亡だ。救助用ドローンを要請したが間に合うだろうか。
屋上に着いた霜月と女子生徒の会話は通信で宜野座にだけ聞こえている。とても危ない状況だ。色相が濁ったことに酷く怯えてしまったらしい。色相ケアで十分治ると霜月がゆっくり説明しているが、女子生徒の方は動揺して理解しようとしない。校舎の下からは友人らが止めるべく叫んでいる。今にも足を踏み外してしまいそうだ。