第19章 楽園事件:10
冷蔵庫から適当に飲み物を持ち出しグラスに注ぐ頃にナイフとフォークが揃った。
はすぐに食べずに様子を伺っている。
「どうぞ。」
「い、いただきます。」
家族の手料理以外はろくな思い出がない。大丈夫なのだろうか。肉は切ると鮮やかなピンク色だった。ミディアムといったところか。
「ん!……うまい…。」
うまい!二回言ってしまった。の顔が緊張から明るい笑顔に変わる。宜野座にとってはその表情も褒美のように嬉しいがとにかく今は口の中を旨味で占拠されている。肉は柔らかいし、少し酸味のあるソースが肉の味を引き立てる。
もやっと一口食べた。よく噛んで味わっていると思いきや首を傾げている。
「どうした?思っていたのと違うか?」
「違います。」
「どう違う?」
「野菜で試食したソースを使ったんですけど、味が全然違います。」
「肉と野菜じゃ成分も違うだろう。」
「それだけでこんなに変わるんですね。」
「うまい?それとも分からない?」
「…美味しいです。」
片方の頬を肉で膨らませては笑っていた。食べることが楽しそうに見えたのは初めてだ。これが昔狡噛もみたものと同じ顔なら良いと思う。食事が美味しいので会話も弾んだ。以前にいた料理好きの執行官の話をした。調子がよくてふざけた報告書ばかり出してきて困ったものだが料理の腕はよくて捜査にも役立ったことがあることを。
「どこで何が役に立つかは分からないものですね。」
「とくにこの仕事では、そうかもな。」
最後の野菜をソースと絡めて口に運ぶ。
「ご馳走さまでした。美味かったよ。」
「ありがとうございました。」
「皿は俺が片付けよう。」
といっても食洗機に放り込むだけだが。そのたった数分での出した今日の結果は野菜より肉の方が好きということだった。イヌワシが動物食だから野菜や穀物は好まないのかもしれないという、よく分からない結果だった。
「あ、そうだ。。」
用事は他にもあった。職業訓練校の件だ。
「急だが、明日に予約をとった。春になると一斉に高校終わりの学生が上がってくるから、もし入るなら同じ時期が丁度いいだろうって。」
「わかりました。」
「一人で大丈夫か?」
「多分、大丈夫です。」