第19章 楽園事件:10
色や香りが似ていても口に入れると変わる。それもそれで不思議だ。あの時特に美味しいと感動したのは肉だった。あれざ何の肉だったかまでは分からない。分厚く、だが柔らかくて中は少しピンク色だった。肉について調べれば切り方や焼き方で全く違うとある。常守に買ってもらったのは牛肉だ。とても貴重な天然食材であるため加工するのに少し躊躇してしまう。しかしこのままにしていても腐らせてしまう。
「お、やってるな。」
ふと、聞き慣れた声がして振り向く。宜野座だった。手が空いたらしく様子を見に来たらしい。
「どんな調子だ?」
「この牛肉の調理に踏み出せず、悩んでます。」
「この肉ならステーキがいいんじゃないか?焼いて胡椒ふるだけだろ?」
琥珀色の瞳が威圧してくる。言葉の選択を誤ったらしい。だが思い切ったように深呼吸すると、はついにトレーに入った肉を調理台に乗せた。半分に切ってキッチンペーパーで水気を切って調理用ハンマーで叩いていく。
「肉は叩くと柔らかくなるっていうからな。」
常守は以前いた執行官にこれを教わり、調理台が砕ける勢いで叩いていたと小耳に挟んだことを思い出す。のやっていることとは随分と違っていた。
フライパンを温めて、肉に下味をつける。フライパンに入れるとジュワっと食欲をそそる音が鳴った。少しずつ香りも上り始める。
「一応聞くがソレは俺も食べていいのか?」
「もちろん。私一人じゃ食べきれないです。」
だから一応確認した。大きなトングで肉を返すといい焼き色がついている。見た目は美味そうだ。なのにどうしても常守の時の胡椒地獄が脳裏を過ぎってしまう。
は付け合せ用の野菜も冷蔵庫から取り出して洗ったり皮を向いて適当な大きさに切った。それから肉をフライパンから出してアルミホイルで包む。まだ焼き方が甘いような気がするがオーブンにでもいれるのだろうか。だがそのフライパンに何かよソースを入れて温めて出した。もう一つのフライパンにはバターで野菜を炒めている。
出来上がってから肉をホイルから出して盛り付ける。ソースの匂いがなかなか食欲をそそる。胡椒はそこまで振ってなかったから大丈夫なはずだ。皿を二つ持ってカウンターテーブルへ並べた。
「ギノさん、ぼーっとしないで飲み物持ってきてください。」
「あ、あぁ。すまない。」