第19章 楽園事件:10
決定的に違うのは通常校は授業の中で仕事を割り出していくのに対し、通信は先に職業適性を駐出してその名から知識を深めるものだった。
「転入の場合は体験入学もできるみたいなので、実際に雰囲気を見て決めても良いと思いますよ。」
黙ったまま資料を見つめる。心配なのは適性診断よりも人間関係だった。こればかりは授業もなければ正解もない。普通に会話する分に問題はないが、だからと言って何も起きない保障もない。通う本人すら戸惑っている様子。
「じゃあ、実際に見てから決めてもいいですか?」
「うん!じゃあ予約は入れておくので…明日になる場合もあると思うんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
「了解。じゃあ、着ていく服も決めようか。」
常守は腕時計タイプのホロ搭載通信器を支給した。コーディネートを相談しながら鏡の前で上下様々組み合わせる。の好みは常守とは真逆で動きやすいカジュアルなものだった。それなりにきちんと見えるように襟付きのシャツとタックの入ったパンツスタイルに決まった。
「これにジャケットはこの色で、靴はオックスフォードシューズなんかどうですか?」
ダウンロードしてホロをあてる。の長い手足が映えるスタイリングになった。
「カッコいいですね!私はそういう系統合わないから羨ましいです。」
「そうですか?私にはこれも見慣れないですけど、気に入りました。」
が気に入ったというワードを出したことに常守は内心喜んでいた。なにせ好みに関しては殆ど情報がない。強いて言えば毎日首から下げている不思議な形のネックレスくらいだ。未だにモチーフの正体は誰も分からない。あれを宜野座が贈ったと聞いたときは常守も驚いた。彼は人に物を与えるようなタイプとは思えなかった。それを六合塚にこっそり話したら彼女も驚いていた。六合塚に至ってはあのケチそうな宜野座さんがとまで言っていた。彼もそうだが何かをきっかけに人は変わる。も良い方に変わればと願う。
その日の夜。八時までキッチンの使用申請を出していたのでは一人ギリギリまで居残っていた。作ったソースを煮詰めてみたりスープに合わせるとまた変化がある。加えることで全く別の味になるものもある。だがあの時ほどの美味しさは感じない。