第18章 楽園事件:9
酷い、という言葉がどこか綺麗に聞こえる。今となっては良い思い出だ。仲間は随分と減ってしまった。
「狡噛さんに会えたら、会いたいですか?」
不意をつかれるからの問いには心の奥を掴まれたような気になる。それは答えを出したくないことの一つだった。
答えを出せばソレに囚われてしまう気がした。
「どうだろうな。会わないにこしたとは無いと思うけどな。」
「どうしてですか?」
「俺が狡噛に会うときは逮捕の時だからだ。」
「逮捕したくないから会いたくないんですね。複雑。」
「そうだな。」
鏡越しに見つめ合う。だがお互いに狡噛の姿を作り出して彼を見つめていた。だがそうしんみりするために戻ってきたわけではないことを宜野座は先に思い出し、の肩を両側から叩く。
「服を渡しにきただけだ。俺は仕事に戻る。」
「あ、あの!」
が宜野座の腕を掴んで引き止める。珍しい行動に少し動悸がした。
「私も、お手伝いできることないですか?洗濯はしたんですけど、あと何をしたら良いか分からなくて…」
洗濯ができたことにまず宜野座は驚いて礼を言うが、確かに長い時間部屋に閉じ込めておくのもどうかと思う。
一ついい事を思いついた。
宜野座は部屋のパソコンの前にを連れていき、椅子に座らせた。電源を入れて古いファイルを取り出す。
「これは俺の学生時代に取っていた授業内容をまとめたものだ。」
「ギノさんって学生の時があったんですか。」
「そりゃああるさ。ちなみに狡噛とは学生時代からの付き合いだ。」
「ふーん。」
ファイルの中身はテキストに少し画像がついていたり、ところどころで文字の色が強調されるかのように違う。
「これを見て勉強しなさい。俺が帰ってきたらテストするからな。」
「テストって注射しますか?」
「そういうテストじゃない。勉強したことを理解しているか俺が問題を出すからはそれに答えるんだ。」
「それだけでいいんですか?」
「余裕だな。だが俺は優しい問題は出さないぞ。」
あまり理解できた様子ではないがは取り敢えずファイルを一つずつ開いて読み進め始めた。
「じゃあ、頑張れよ。昼食をとるのを忘れるな。」
「……。」
「…。」
真剣に画面に見入っているのか返事がなかった。