第18章 楽園事件:9
常守は先に部屋を出ていった。正直、行かないでと思った。宜野座が目つきを変えてを見る。は下を向いて逸した。心配しているのか見上げているダイムと目が合う。
「。」
「はい。」
「何してる、着替えてみないのか?」
「え?」
宜野座は箱から何着か服を出して広げていた。常守はコーディネートできるように何着かをセットにして入れていたようだ。
「ほら、これなんかどうだ?」
適当にとったセットだが、ブラウスにタータンチェックのスカートとタイツ、ショート丈のコートまで入っていた。には目が痛いほど色が鮮やかに見えた。だがそれを受け取って寝室に隠れて着替える。袖を通しながら思うのは宜野座が怒っていないのかどうかだった。常守のコーディネート通りに着替える。まるで彼女を着ているみたいだ。
少し恥ずかしいと思いつつもリビングに出る。
「ちょっと私には可愛すぎませんか?」
「おぉ、馬子にも衣装だな。」
「孫でも娘でもないですけど。」
「よく似合ってるって意味だ。」
「そうなんですか?」
もう一度自分の姿を鏡で確認する。検査衣に見慣れてしまったせいかやはり違和感しかない。宜野座が背後に着て肩に手を置くのが鏡に映った。義手は手袋越しにゴツゴツした感触があった。
「見慣れないんだろう?」
「分かりますか?」
「その顔見てればな。」
そんな表情をしたのだろうか。鏡で自分の顔を見るも相変わらず無表情。もう少し豊かならいいのに。
「どうした?」
「何がですか?」
「今落ち込んだから…」
「分かるんですか!?」
は本当は自分の見ている鏡が偽物で宜野座が見ているものが全てを映しているのではないかと思った。だが鏡に変なところはない。なぜ分かるのだろう。
「もう少し、喜んだり笑ったりできたらいいのになって思ったんです。」
普通の人と同じように。
「昔に比べたら随分表情が変わるようになったんじゃないか?最初にあった頃は顔が固まって動かないんじゃないかってくらい無表情だったからな。」
「そんなにでしたか?」
「まぁ俺も他人の事を言えた義理じゃないが…」
「ギノさんは怒ったり驚いたりしてましたよ。」
「それは佐々山といる時の話だろう?あいつは酷い猟犬だったからな…。」