第18章 楽園事件:9
宜野座は執務室へ戻った。まだ常守しかいない。今日のシフトは霜月は休暇、六合塚は午後からだ。
「に着せたらなかなか似合ってた。ありがとう監視官。」
「もう、それやめてくださいよ。でも着てもらえたなら良かったです。さんはお部屋にいるんですか?」
「あぁ。暇なようだから学生時代の授業まとめを全部押し付けておいた。」
「うわぁ…」
「あの量なら一日もあっという間に過ぎるだろう。」
「その前に飽きませんかね?」
「はやる気が漲って最後は声も届かないほど集中していた。」
「それもそれで心配な気が…」
「それでも、常識を教えなければこの社会では生きていけない」
全ては彼女に普通の暮らしを送らせるためだった。彼女のサイコパスは記録が古いだけでまだ残ってはいる。昔狡噛が持たせたものだった。色相の計測なら新しいもので代用がきく。心配なのは社会適合度合いだった。本来職業訓練を受けてすでに仕事についている年齢のはずであるを適正を出すところから始まる。いずれは公的機関で試験を受けさせ、仕事についてもらわなければならない。寮のあるところもある。そういう職ならどうにかなるだろう。
「幸いあいつの色相は測れないわけではない。ただ、変わらず白いだけだ。シビュラには常に良好に見えるだろう。」
「さんなら刑事も出来そうですけどね。強靭な色相は監視官にはもってこいです。」
「あいつはどちらかといえば使役じゃなく狩る側だろう。監視官適性は…どうだろうな?」
「宜野座さんはさんがどんなお仕事につくと思いますか?」
「そうだなぁ…動物は好きみたいだし、アニマルセラピストとか?」
常守には鷲が人を癒やす姿が浮かんでしまった。
「本人がアニマルになれますしね…。あ!配達員さんとかもできそう!」
赤い革のかばんに荷物を入れて飛ぶ姿が目に浮かぶ常守。
「待て、人の姿で仕事をさせることを考えてくれるか?」
「すみません、あの印象が強くてつい…」
確かに大きな翼を広げて飛ぶ姿は優美で勇ましかった。そういえば彼女は鷲の姿でいることもそれほど抵抗はない様子だったが人と鷲とどちらでいるほうが良いと思っているのだろう。人でいることを当たり前としてしまった。見当違いな考えを押し付けて苦しめてはいないだろうか。