第18章 楽園事件:9
ぼんやりと考えているとダイムが額で膝を押した。しゃがんで頭を撫でるとダイムも座る。
「ダイムは賢いですね。」
顎の下を撫でると目を細める。愛嬌のある表情に癒やされる。脳裏に亮一が過ぎった。彼も屈託のない笑顔をする人だった。なんとなくいつも傍にいて、温かかったあの頃が懐かしい。
私もそんな人になれたら…。
は思っていた。感情があまり表情に出ず愛想がないのは自分でも分かっている。それでも彼のように正直な表現者になりたい。どうすればいいだろう。人でいるか、鷲でいるか。どちらで生きよう。どちらも、はアリなのだろうか。
その時部屋の扉のロックが解除されて開いた。大きな箱を抱えた宜野座と常守だった。
は立ち上がって歩み寄る。
「おはようございます、さん。その後具合はどうですか?」
「え、具合…ですか?」
なんとなく宜野座を見ると何故か顔を赤くして違う違うと手でジェスチャーを送ってくる。よく分からなかったので大丈夫ですとだけ答えた。常守が持ってきた箱を開ける。中は衣類だった。
「これ、私のですけど。着なくなった服を少し持ってきました。多分サイズ同じぐらいかなと思ったんですけど良かったらどうですか?」
「どうって、貸してくれるんですか?」
「いえ、良ければあげます。」
「いいんですか?」
やや驚いたような声に常守が微笑む。
「いつまでも検査衣のままじゃいられないと思って。」
「あぁ…」
そういえばといったような返事に宜野座が呆れている。そんなにおかしいのかには分からなかった。
「姿を変えるなってことですか?」
「えっ…」
そんなことを言われると思っていなかったといったような表情の常守。宜野座は怒ったような声で名前を呼んだ。
「監視官のご厚意だぞ。ありがとうだろ。」
「すみません、ありがとうございます。」
はとくに表情を変えずに頭を下げた。普通なら感謝の意が伝わらない様子だが彼女だから仕方ない。
「こっちこそ、なんだか厚かましくごめんなさい!気に入るものがあればでいいですから。」
「すまんな常守。」
「いえ、そんな。」
なぜ宜野座が常守に謝っているのかは分からない。宜野座は少し話してから戻ると常守に話していた。怒られるのだろうかと体が強ばる。