第17章 楽園事件:8
現実離れした光景につい固まってしまう常守だったが、の不安げな表情をみて直ぐに微笑む。宜野座と六合塚と霜月と、全員の顔を見た。皆思いの外穏やかだった。は力が抜けたようにその場に倒れた。
「俺が連れて行こう。」
宜野座が抱えようとするので常守は彼女の体が見えないように検査衣で包む。その時気がついたが首の傷は無くなっていた。は唐之杜の検査を受けるが特に異常もなく、そのまま部屋に戻された。意識は戻らないが深く眠っているだけのようなので心配はいらないという。
刑事部屋のソファに寝かせるのも良くないかと思い、宜野座は官舎の自室にある自分のベッドに寝かせた。常守が様子を見に来た。
「どうですか?」
薄暗い部屋にベッドの側だけ小さな灯りが照らす。眠気を程よく誘う明るさだ。
「よく眠っている。ろくに寝ていなかっただろうからな。」
「そうですよね…。あ、あの、すみません、宜野座さんのベッドをお借りしてしまって。」
「なぜ常守が謝る?俺がそうしたくて連れてきただけだ。ソファじゃ休まらないだろうからな。」
「ありがとうございます。」
「阿頼耶の方はどうだ?」
「そうでした、そのことなのですが。」
遺体の分析結果は出ていた。阿頼耶の身体には何層もの皮膚や不必要に形成された骨があったことから、化身が不完全であったことが分かった。遺伝子構造には複数のゲノムが無秩序な構築をしていて、このままだと何者にもなれない生物となっていたかもしれなかった。
「所持品もいくつか回収したので、滞在場所も割り出せました。霜月監視官と六合塚さんに向かってもらっています。」
「そうか。」
阿頼耶…呆気ない最後だった。人同士、言葉を交わす戦いは出来ない。二人は獣だった。どちらかが死ぬまでやり合うしかなかった。自然界はここよりずっと厳しいと宜野座は思う。はどちらで生きるのだろう。きっと彼女にとってはどちらの世界も生きにくいだろう。せめて今だけは時間がゆっくり進めばいいと思う。
やがて阿頼耶の滞在していた場所から薬品や研究機材等も見つかった。動物のサンプルも複数ありそこから遺伝子を抽出していたとみる。また現場で六花の髪を回収。彼女は二十五年前に誘拐されたとの履歴が残っており、戸籍もサイコパスも存在していた。