第17章 楽園事件:8
そこから両親のデータも出たがのことは何も出てこなかった。恐らく父親が違う。阿頼耶との血縁を疑ったが、阿頼耶本人のメイン構造とは違うためその線はなくなった。
唐之杜曰く、六花のゲノムが加えられているから一部一致しただけだという。
「にしても、これだけ天才的な発明をしたように見えたけど、結局成功例は彼女だけだったのね。」
唐之杜はタバコをくわえ火をつけながら言った。確かに、化身するほどに他の動物のDNAを馴染ませたのは、凄い成果だろう。だがそれを維持できるかまでは個体差がありすぎる。
「さんが今後他の例のように狂暴化することはあると思いますか?」
「どうかしら。そういう素質はあるんだろうけど。」
「あいつは大丈夫だ。俺たちが導いてやればいい。」
「じゃあ、その辺りは宜野座さんにお任せしますね。」
「宜野座くん、わんちゃん飼ってるし適任よねぇ。」
「ペットを飼うのと訳が違うぞ!?」
「あれ、無理言っちゃいましたか?」
常守のあからさまな態度に呆れるも任せてもらえるのは有り難いとも思う。宜野座は仕方ないなと言いながらも暫く様子をみるとも言った。だがいつまで社会から隠していられるだろう。
は丸一日眠り続け、翌日の夜中にようやく目が覚めた。ベッドの上には大きな犬が寝ている。老犬だった。犬は首を上げてを見つめる。何か訴えかけられている気がした。
「あなた、ダイム?」
ダイムはゆっくり立ち上がるとの傍に寄り添いまた伏せた。心配してくれていた、というのは分かる。亮一と一緒にいたせいだろうか、それとも自分自身が獣であるからなのか。はダイムの顎を指でかくように撫でる。
ダイムは鼻を鳴らした。の顔から自然と笑みが溢れる。だがふと、思い出す。亮一がいたことを。阿頼耶との昔のこと、六花のこと。狡噛のことも。皆居なくなった。独りになってしまった。脳裏には十年以上前の阿頼耶が浮かぶ。もう少し素直さが残っていたらどうしていただろうか。彼の研究は良い形で成功できただろうか。考えても分からない。
はダイムを抱き締めた。ふわふわの毛並みに顔を埋める。ダイムは困ったように鼻で鳴いた。