第17章 楽園事件:8
空で甲高く鳴く鳥の声が聞こえた。黒い影が地面を覆い、阿頼耶を連れ去った。が足で阿頼耶の身体を掴み急上昇する。
「ー!」
声が届くのか分からないほど高く昇っていく。闇に溶けて何も見えなくなった。静けさが広場に残る。四人が息を飲んだ。すると、が阿頼耶を掴んだまま急降下してきた。翼をたたみ、弾丸のように落ちてくる。その勢いのままは阿頼耶を離すと、阿頼耶の身体は地面に叩きつけられ、肉の潰れる音がした。はソアリングしてまた高く昇り、様子を伺っている。
宜野座が阿頼耶に近づき現状を確認する。確認するまでもない。近くで見ればすぐに分かる。一体、高度何百メートルから落とされたのだろう。肉が地面に張り付き、頭蓋骨も崩れていた。無残だった。
常守と六合塚も、その後ろから霜月も来た。潰れた肉を見て感じるのは虚しさだ。
「清掃…します。」
六合塚が冷静に放った。早く片付けて規制を解かなければならない。
「お願いします。」
常守もなんとも言えないといった表情でいた。そらを見上げれば、がグライディングしていて甲高く鳴いていた。
短く何度も鳴いていた。
宜野座はに手を振って降りてこいと言ったが構わず飛び続けている。が、六合塚が指笛をピィーっと吹くとゆっくり高度を下げて降りてきた。少し羨ましい。疎ましく見ていると六合塚と目が合う。
「動画で見たんです。こうやって呼んでいるの。」
「俺にも教えろ。」
「簡単ですよ。」
宜野座が六合塚にレッスンを受けている間には地面に降りた。大きな翼を羽ばたかせ、ゆっくりたたむ。首には血が滲んでいた。常守がすぐに医療用ドローンを呼ぶ。
「大丈夫ですか?」
羽根をかき分けて皮膚の状態を見る。噛まれたときに無理に動かなかったこともあり、小さな刺し傷のようになって済んだ。するとこのかき分けた羽根がポロポロと抜け出し身体が少しずつ小さくなっていく。人に戻るのだと分かった常守は放ったままにしていた検査衣を拾いに行って彼女の体に被せた。そのまま待っているとやがて動かなくなり、白い髪と白い肌の女が顔を出す。顔の皮膚がボロボロだった。首は赤い噛み傷が目立つ。羽根は抜け落ちているが毛のような物が散らばっているだけだった。羽軸は回収されているらしい。