第16章 楽園事件:7
「私達がフォローしますから、無理はしないでくださいね。」
「ありがとう、常守さん。」
は常守に笑みを向けた。先程の鋭い目ではなく、温和だった。それは常守も初めて見る彼女の顔。少しだけ距離が縮まった気がした。
「やれるのか?」
宜野座もの隣にやってくる。先刻までの話を聞いた上では正直不安だった。はネックレスを外して宜野座に差し出す。
「これ、持っていてくれますか?千切れると嫌だから…」
それは化身した時のことを言っているのだとは分かった。
宜野座はそれを受け取って自分の首につけて、シャツの中に入れた。
「預かっておく。大丈夫だ。」
そういうとは柔らかく微笑む。その場にいる一係の面々をまるで見納めのように眺めていた。宜野座がしっかりしろ、と背中を叩く。
「お前が頼りなんだ。」
「私が負けるとでも思ってるんですか?」
「随分強気だな、この前は全く歯が立ってなかったように見えたぞ。」
以前の廃棄区画のビルで一戦交えた時は攻撃を全て防がれていた。あれなら宜野座の方がまだ戦闘世員になる。
「私は負けないですよ。生態系の頂点は私ですから。」
イヌワシは肉食で天敵もいない。確かに生態系の頂点にあたるがそれは阿頼耶も同じだ。それでも半端な化け物には負けられない、彼女にはそれなりの意地があった。
「指向性音声の通信器はないですか?」
「デバイスを使えばできます。」
「これ足首でも使える?」
「使ったことないから分からないけど…」
常守は自分のデバイスをに渡す。それを足首に装着して指向性音声をテストした。
「どうですか?」
「あ、聞こえた。」
常守にだけ聞こえた。
「これ、借りてもいいですか?イヌワシは人の声帯を持たないから話せなくなるので…」
もちろん腕もないので手首への装着もできない。
「なるほど…それはそうですよね。」
は手を空に伸ばした。冷たい風を全身に浴びる。それがどこか神秘的で常守は見つめていた。すると真っ白な手が天に向かって文字通り伸びだす。メキメキと音を立てて指先が接合していき、太い羽軸が一気に飛び出す。この場の全員が呼吸も忘れて見入った。唖然とした。は人のそれではなくなった腕を顔の前で隠すように交差させる。