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BERKUT【PSYCHO-PASS】

第16章 楽園事件:7


どうしてこうなっているのか、お互いがよく分かっていなかった。宜野座はなんとかして伝えたいものが合ったしは動転する気持ちが困惑に変わり動けない。それでも唇から伝わる互いの温かさは確かに心地よかった。顔を離さずにもう一度腕に彼女を収める。なんともいえない愛しさが込み上げてきた。宜野座に恋人なんてこれまでいたことがない。他人に構っている暇もなかった。今は時間よりも心に余裕ができた。だからを存分に構いたい。だがそれは親友を裏切ることになるような気もする。悪気も少しはある。それでも、目の前でこんなに弱り果ててる人を放ってもおけない。彼も当時はそう思っていたのだろうか。だとしたら納得だ。
守りたいと思ってしまう。自分しか救えないのではとすら思う。彼女にとっても、自分がそうなればいいと。
ゆっくり唇を離した。は大人しくなっている。抵抗もしなかった。睫毛を伏せたまま動かない。もう狡噛のことは良いのだろうか。聞きたいが少し怖くて聞けない。あえて触れずに、白い睫毛を眺める。風でなびきそうなほど長く美しい。彼女は形は人間なのに人間離れした美しさを持っている。が瞳を向けてきた。奥行きのある金色の瞳に引き込まれそうになる。どうしたら良いか分からず微笑みかけた。は余計に困惑する。瞳が震えるように動いていた。それからもう一度包むように抱き締めた。

「後の事は分からない。俺も、自分のこれからなんて分からない。明日どうなるのかも。でも、それでいいんじゃないか?」

分からないのは不安だ。それでも生きているものは生きるしかない。死はある意味で選択だが、それなら幸福だって自らの選択から生まれる。

「どうしたいか分からなければ、目の前のものを掴めるだけ掴め。掴んで縋ってみればいい。それが違うと思ったなら、別の選択が向こうから来る。」

「そういう、ものでしょうか…」

「案外そんなものだ。」

「そう、ですか…」

は宜野座の背に縋るように抱き締め返す。彼女には今それしかない。だが、次にふと浮かんだのは何故か阿頼耶の顔だった。まだ笑顔を向けていたころの阿頼耶。懐かしい。それに彼を好きだった愛する妹の顔も。だがなぜか心が痛む。散々泣いたはずなのにまた涙が滲みだす。泣き出すに今度は宜野座が困惑した。
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