第2章 File:2
呼吸の度に動く白く華奢な背中にそっと手を這わせると、その針のようなものは意外にも固く、ザラザラとした肌質になっていた。まだ皮膚を突き抜けていないものあるらしい
の体がピクリと動いた。
「痛むのか?」
狡噛は手を離して彼女の顔を覗きこもうとした。
は小さく頷くと、顔だけ後ろに向けて小さな羽根を力一杯毟りだした。本当に体の一部であることは毟った痕から血が滲むのを見て分かる。
は歯を食いしばって痛みを堪えながら羽根を毟るので見ていられなくなり、その手を止めさせた。
「やめろ、痛むんだろ?」
「普通の人にはこんなものありませんよね!?」
は毟り取った羽根を見せつけた。根元には皮膚がくっつき、やや血の赤が残っている。
「これで分かったでしょう!?私は怪物になります。そう遠くはないです!だから」
「だから死にたいってのか。」
狡噛は興奮しだしたをベンチに座らせるとシャツを再び羽織らせボタンを一つずつかけた。
「お前の言い分は分かった。俺もこればっかりは初めて見たからな、正直頭の整理がつかない。でもな一つ分かったことがある。かなり重要な事実だ。」
はシャツから離れる狡噛の手を眺めたまま俯いた。
だが次には頭にその手の重みを感じる。ゆっくり顔を上げてみると彼女の目に映るのは優しい笑顔だった。
「少なくともお前は、普通の女の子だってことだ。」
彼は刑事である以上架空のものを前提にはしないが、怪物という未知の存在がいるとしたら、そいつらは自分が怪物であることを恐らく理解してはいないだろう。
そして自らを危険だと示唆することもないと推測する。は自分の危険性を考えて行動した。今後起きるかもしれない事態に備えた行動だ。
「だからお前は間違いなく人の子だし、周りがなんと言おうが俺にはちゃんと女の子に見える。ここまでよく頑張ったな。」
最後の言葉には声を殺すことなく大粒の涙を零した。
人と違うのは良いことばかりではない。彼女のように体に異変が起きていれば尚更だ。
狡噛はが泣き止むまで頭を撫で続けた。
「は泣き虫だな。」