第16章 楽園事件:7
「生きていると、いろんな"死"に会う。それか身近な人ほど悲しみも大きい。で、一頻り悲しんだら、考えるんだ。これからどう生きていけばいいのか。」
の瞳が真っ直ぐに奥に入ってくる。探している、答えを。
「俺の場合は選択肢が二つしかなかった。矯正施設で一生を過ごすか、執行官に落ちてでも刑事に戻るか。で、親父のような刑事になりたいと初めて思ったんだ。」
本当は初めてじゃない。きっと遠い昔から潜在意識にあった。父への憧れが。だが社会が潜在犯を認めないから隠したのだと思う。それがずっと引掛り、苦しみながら監視官になった。今思えば監視官は辛いことが多かった。
「ギノさんは執行官になってどう思ったの?」
「気楽だ。今まで否定してきた親父を肯定できる。もちろん不自由もあるが…でもここが自由になった。」
宜野座は自分の胸を叩いて示す。
父親の望んだ生き方ではないかもしれない。だがきっと、それでも刑事でいることは喜んでくれるはずだ。そう思いたい。
「お前はどうする?」
「私は…」
「には翼がある。シビュラもお前のことが白すぎて見えない。どこにでも行けるぞ。」
「どこにでも…」
だが分からない。どこにも行きたくないのかもしれない。動けないの方が正しいか。今までなら妹を探すという目的があった。だがそれももうなくなった。生きる目的が見つからない。もう懐かしい、亮一がいつもいたことが。
「私も…行きたい。」
「ん?」
「リョウと、六花のところに行きたい…」
でもできない。
昔からそうだった。は分かっている。何度も考えてきたが死がどうしても怖い。望むほど恐怖でいっぱいになる。誰も守れなかった、誰も助けられなかった。口ばかりで死ぬ勇気もない。
「行きたい…イ、キタイ…」
頭を抱えて唱えるように繰り返す。言葉は短く息を吐くばかりで声にならなくなってきた。彼女の変容に宜野座は背を擦るしかできなかった。
「大丈夫か?」
「ハァッ、ハァッ…」
苦しそうだ、なかなか治まらない。どうすれば落ち着かせられるだろう。今思いつくのが一つしかない。やってもいいのか分からないし治まるものかも分からないが、悩んでもいられない。宜野座はをその腕で包みぎゅっと懐に収めた。そして背と頭をゆっくり撫で続けた。