第16章 楽園事件:7
再び体を起こすとアンバーの瞳と視線が交じる。宜野座は驚いて一瞬呼吸が止まった。もゆっくり体を起こす。いつから起きていたのだろう。呼吸が再開しても動悸がしていた。
「おっ、起きてるなら言え!」
噛んだ。これでは動揺がバレバレだ。
「…今起きました。」
「もう遅い!」
はぼんやりと宜野座を見ていた。だがそう見えるだけで本当は目が腫れていた。充血して真っ赤になっている。それでいて唇に色がない。
「食事はとれているのか?」
「気分じゃないので…」
は目を逸らした。何も言わず動かない彼女をただ眺めていた。喪失感が放出されている。しかし元気を出せと言っても無理だろう。家族を失う悲しみは宜野座にも分かる。
「俺の親父はな、俺の目の前で死んだんだ。」
語りかける宜野座に目を向ける。征陸執行官が父親だったことを知ってるかと聞くと、狡噛から聞いたことがあると彼女は答える。お喋りなやつめ。
「俺たちが犯人を追っていたときだった。俺のミスで罠にかかって、俺はコンテナの下敷きになった。腕を失ったのもその時だ。親父は犯人を取り押さえたんだが、そいつが俺に向かってダイナマイトを投げた。言ったんだ、俺は。親父は昔から刑事だから、その勤めを果たせって。でも…そうしなかった。」
宜野座は革手袋の下の義手をぎゅっと握る。
「親父はダイナマイトを俺から離そうとした。それで自分だけが犠牲になった。そうやって最後には…俺の親父として死んだ。」
「…寂しくなった?」
の声はいつもより細く感じた。脳に浸透するかのよう。
「あぁ、わけも分からず泣きわめいてたよ。」
「ギノさんも泣くんだ…」
「どういう意味だ。俺だって人間だ。」
「その悲しみには、どうやったら勝てますか?」
悲しみに打ち勝つ方法。そんなもの彼にも分からなかった。ただ犯罪係数が上がって施設に行き、こんな人生を天国から見てる両親はどう思うかと考えて元鞘に戻った。そうしてる間に気持ちが落ち着いた。全てを受け入れられた。
そうだ、全部受け入れると楽になる。
「悲しい気持ちに勝とうなんて思わなくていいんじゃないか?」
確かに悲しみなんて取り払いたくなるのも分かる。だが。