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BERKUT【PSYCHO-PASS】

第16章 楽園事件:7


今度の爆発による死亡者の多さはたとえ潜在犯とはいえ公安局の禾生局長も眉を潜めた。一刻も早く阿頼耶真の即時抹消が命じられる。今度ばかりは常守もその指示に納得しそうになる。阿頼耶は思想を追い求め人の命を奪いすぎている。もちろん彼だろうと他の人間であろうと命の重さは同じと思う。それでも、許せなかった。




宜野座は刑事部屋のドア越しに中の人間を呼ぶ。人間、なのだろうか。彼女から返事はない。さすがに丸一日顔を見ないのは心配だ。

「、入るぞ。」

強行した。部屋は真っ暗だった。全体の明かりを灯してもの様子は見えない。大きなソファの向こう側を覗く。彼女はソファの上で寝ていた。背もたれで見えなかっただけだった。しかもこれほど近づいても気が付かないのは珍しい。ソファの前に回り隣に腰を下ろす。まだ起きない。少し目の下が赤いような気がする。たくさん泣いたのだろうか。
呼吸に合わせて上下する細い肩。小さな呼吸。歳はそこまで変わらないはずなのに彼女は随分子供っぽく見える。白く長い前髪が顔にかかっていた。それを指で払う。上手く捌けられない。指に絡めて耳にかけた。今度は思ったように出来た。まだ起きない。の首元にはあのネックレスが光っている。ずっとつけているのだ。思わず笑みが溢れる。だがこれから先、彼女はどうしたら良いのだろう。当時、親友も頭を悩ませていた。民間の支援団体に預けるなんて案もあった。もはやサイコパスまで真っ白になってしまった彼女を引き受けてくれるところは恐らくないだろう。全て偽装して生きるしかなくなる。シビュラの目を誤魔化したところで本人はそれで幸せになるだろうか。幸福を感じる人生とは何だろうか。他者がいてこその幸福だと宜野座は思う。もちろん自分一人だけで味わえるものもあるだろう。だが継続した幸福感は他者あってこそだ。もちろんストレスだって他者からくるものが多いがそれ以上の幸福は確かに存在する。だから人間はここまで繁栄した。彼女に幸福を与えるのは誰が残っているだろう。親友がここにいたならどうするだろう。
宜野座は横になったままのを覆うようにして抱き締めた。彼女の孤独がそうさせるのか、彼女に対しての憐れみがそうさせたのか分からない。分からないが抱きしめてあげたいと思った。
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