第15章 楽園事件:6
想像してしまう。生きたまま人に食われるのはなんて恐ろしい光景だろう。阿頼耶もそれに恐怖は感じたのだろうか。
「アンタも、食ったの?」
いつの間にか阿頼耶の直ぐ前にいた。彼女の攻撃的な姿勢は背中からも感じられる。野生地味た二人ならより感じ取っているのかもしれない。
阿頼耶は泣くのを止めて口端を上げる。その線は歪んでいた。
「食べたよ…僕の食料もずっと前に底をついてしまったからね。」
の目が怒りを表す。小さな握り拳が震えている。
「美味しかったよ、六花。」
「ああああああああ!」
は叫び狂い阿頼耶に掴みかかって頭を殴ろうと拳を上げるが彼女の軽い体はすぐに投げ飛ばされてしまった。だか受け身を取って地を転がりその反動を使ってまた向かう。だが相手は男だ。力で押し負けている。遂に反撃しようとする阿頼耶を見て宜野座は瞬時に間に入った。を後ろに投げ飛ばし、攻撃を防ぐとあからさまに嫌な顔をする阿頼耶。すると袖口からナイフがすっと出てきた。それを振りおろそうとする。まだ生身の腕の方が狙われる、こちらでは刃物を防げない。だが致命傷を避けるために差し出さなければならない。瞬間的に頭でそう考えを巡らせるが、ナイフが接触するより先に横から衝撃がきた。が全身を使って体当たりしてきた。宜野座は横に飛ばされて地面に倒れた。阿頼耶がの腕を切り落としたのが見えた。鼓動が早くなる。怒りと混乱。
阿頼耶自身、驚いて動きが止まった。ナイフが落ちる。それがとてもゆっくりに見えた。は腕を抑えてしゃがみこんだ。血が流れ落ちるのが見える。
阿頼耶が血相を変えて逃げ出した。
「待て!」
宜野座は起き上がって追いかけると阿頼耶の背がどんどん丸くなっていき、人の姿ではなくなった。四足で更に早く駆けて行く。服が少しずつ脱げていき、やがて大きな猫のような生き物が現れた。それは建築途中のこの建物を軽々と飛び降りてしまう。駄目だ、階段では間に合わない。下に残っている監視官に追跡を頼まなければ。
「監視官!阿頼耶が…」
言いかけた時、下階から爆発音が一つ、また一つ遠くから迫ってきた。遅れて煙が舞い、デバイス越しに叫び声も。建物の一階の支柱が爆破され、崩壊しようとしていた。