第15章 楽園事件:6
暗くてよく見えないが何かいる。それは走って逃げていく。があと少しで追いつく。鉄骨がまるで遊具のようだ。軽々と登っていき一つを支柱にして体をぐるりと回し奴に蹴りを入れていた。回転の遠心力で相当な威力だったのだろう。そいつが腹部を抑えてようやく立ち上がるところに宜野座は追いついた。目はだいぶ暗闇に慣れた。あれは…阿頼耶だ。
ドミネーターを構えるが反応しない。と同じだ。だがドミネーターが使えなくても体がある。は阿頼耶に怒りの拳をぶつけようとしていた。だがそれがギリギリでかわされる。彼女は酷く怒りに囚われていた。亮一のことは阿頼耶の仕業なのだろうか。の激しい攻撃を阿頼耶はなんとかかわしている。速くて鋭い。その動きはどこか狡噛に似ている。
「、話を聞いてくれ。」
阿頼耶は攻撃を受け止めながら話しかけている。どういうつもりなのか分からないが宜野座はその間に入って次の体勢を取るを引き離し、義手の拳を阿頼耶にぶつけた。
阿頼耶が後方に倒れた。が唖然としている。息が切れる。宜野座は呼吸も整わないうちに尋ねる。
「今度の傷害事件、お前の仕業か!?」
ゆっくり起き上がる阿頼耶に再び向かおうとしたを肩を掴んで征する。阿頼耶は何かを言おうとしていた。
「噛んだのは僕じゃない。が、責任は僕にある。」
阿頼耶の目が暗がりでも反射してビー玉のように光った。
「矯正施設に送られた潜在犯の若者を救おうと思った。僕の研究で新しい遺伝子を組み込めばシビュラは何も測れなくなる。時間はややかかるが上手くいった。でもその後が駄目だった。動物の因子に急速な対応ができずに皆空腹感に襲われたんだ。そして我慢できなくなった。」
やはり、噛み付くという行為は食べることだった。空腹で彷徨う彼らは人の理性と欲求の間で葛藤を続けて、やがて負けてしまう。
「今日、亮一が僕のところにたどり着いたんだ。彼はまだ僕をセンセイと呼んでくれたんだけど…」
阿頼耶は口籠る。様子が変だと思った。が手を離れてゆっくり奴に近寄りだす。
「駄目だった…」
泣いている。この男。どういうつもりなのか宜野座には理解できない。
「お腹が空きすぎた彼らを留めておけなくて…亮一が…」