第15章 楽園事件:6
「彼は!?」
お疲れ様ですと敬礼する霜月に常守が言う。霜月は積まれた鉄骨にかかるシートを指差した。そして常守の後ろにいる真っ白な女を見て体を強張らせる。はそれに気がついたのか霜月になるべく近づかないように距離をとった。
「まず、私が確認しますので待っててもらえますか?」
は小さく頷いた。シートに近づく常守を不安そうに見つめる。胸に手を当てているようだがあれはペンダントトップを握っているのだろう。宜野座は何も言わずにの傍へ行った。かける言葉も見つからない。見上げる彼女の瞳は見たことないほど怯えていた。
そして常守から合図がくる。は駆けて行った。
泣き叫ぶ声が辺りに響いた。
常守がを抱き締めている。大切な友人の死を体験した彼女なら誰より深く理解して寄り添ってあげられるだろう。
少し落ち着いたところで、亮一の遺体は詳細の鑑識に回し、その後きちんと弔うことを約束した。
「調べが終わったら遺体は供養して焼いてもらうのだけど、遺灰はさんに任せて良いですか?」
は鼻をすすって腫れた目を擦りながら頷いた。
「ごめんね、こんな話。だけど、急がないと犯人を野放しにしちゃうから…必ず捕まえるから…」
常守は言いながの背中をずっと擦っていた。まだ嗚咽の混じる彼女だが急にピタリと止んだ。その違和感に宜野座も近寄る。彼女のアンバーの瞳が鋭くなった。瞳孔が細くなっている。突然空を見上げ一点だけを見つめる。周りは骨組みだけの建物ばかりだ。照明が一つもないので真っ暗闇に佇んでいる。だがその一角に何か動くものを見たような気がした。それが幻覚ではなかったのか、は建物に向って走り出した。
「さん!」
常守が叫ぶ。それより早く宜野座が動けた。を追いかける。だが彼女の足の方がずっと早い。距離を縮められない。
「!どうした!?」
返事は帰ってこない。は建物の階段を使わずに鉄骨を登っていった。さすがの宜野座もそこまでの身体能力はない。直ぐに階段を見つけたので駆け上がる。まるで木登りするように鉄骨を登るの方がまだ早い。それに登りながら横にも移動していく。彼女の追う先には何がいるのか。