第15章 楽園事件:6
霜月は色相グラフを睨みつけるように見ていた。どこかに何かが見つかるはずだと信じているのだろう。
一つ見つけた。
「最初の二週間は、悪化したり戻ったりを繰り返しているのに、その後から少しずつ回復に向っている…」
「治療の薬が効いてきたことも考えられないか?」
「この最初の二週間を過ぎてから、面会が来ています。相手は…母親ですね。八巻一恵。」
「母親の顔を見て更生を決意した可能性もある。」
そんな都合の良い話なんてない、霜月はそう感じていた。他にも何かあるかもしれない。母親が面会に来たのだってこの一度きりだ。購入履歴に変なものは紛れていないか。
二週間に一回マスクを購入している。集団生活のための予防だろうか。出荷元は薬品会社だ。別に違和感はない。
「人を凶暴化させる方法で一番あり得ることはなんだと思いますか?」
霜月は六合塚にふった。
「一般的には薬が早いと思います。精神刺激薬か、違法薬物で依存させて、突然それを取り上げるとか。」
「だが薬は厳重に管理されているだろう。」
「外から受け取っていたというのは?」
「施設でも検査はしているだろう。異常があれば手に渡ることもないはずだが…」
「異常と認識されれば、ですよね。」
ふと、常守から連絡が入る。霜月は応答した。
「先輩、今何してるんですか!?」
「ごめん…八巻が目覚めて急に暴れだしたの。パラライザーがあまり効かなくて。」
宜野座も六合塚も顔色を変えた。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫。悪いけど、そっちの検証、引き続きお願いします。」
通信は向こうから切られた。霜月は大きく溜息をつく。心配してあげたのにありがとうもなしかと小言がとまらない。
おまけに今のところ原因は何もわかっていない。更生施設からの出所、だが結局悪化して人を襲った。潜在犯と判定されれば人を襲うのはあり得なくはない。しかし常人でいる期間がある。さらにこの事件は犯人がみな別人な上に、いずれも噛み付くというやり方が一致している。
「…食べている?」
六合塚が零すように言った。宜野座も霜月も驚いて彼女をみる。
「まさか、人が人を食うなんてあるわけないだろう。」
「でも、宜野座さんも言ってたでしょう。亮一やと同じなんじゃないかって。」
彼らは獣としての意識も持ち合わせている。それと同じだとしたら。
