第14章 楽園事件:5
「まだですか?」
「待てって。」
もう少しスマートに出来るはずだったのに。段取りを確認しておけば良かったと思う。
チェーンをの首に回して、フックを閉じる。鎖骨の中央にネックレスの中心が来るように寄せて。
「いいぞ。」
目を開けるの顔が一瞬にして驚きの表情に変わった。わぁと口が開いても声も出ていなかった。柱に顔を寄せてよくと眺めている。
しばらく眺めてからやっと振り向いた。
「あ、あのっ。これ…」
あまり声にもなっていない。期待通りの反応だった。
「プレゼントだ。大昔はこの時期に贈り物をする習わしがあったらしい。今日は俺の用事にも付き合ってもらったしな。そのお礼だ。」
「でもこれ、すごく高いものでしたよね…?」
「そんなことをいちいち気にするな。」
宜野座は義手に手袋をはめ直して彼女の真っ白な髪をくしゃと撫でた。
「さ、帰るぞ。冷えてきたな。」
先を行く宜野座の背中を追いかけようとした時、ふと空を見上げた。雲が遠くまで覆っている。雪が振りそうだ。
宜野座が呼ぶ声が聞こえたのでまた駆け出した。
帰りの車内。行きとは反面静かだった。楽しかった、ちょっと別れが惜しいと思うせいかもしれない。
「。」
は隣の宜野座に顔を向ける。少し疲れても見えた。
「また、行こう。」
彼女は少しきょとんとしていた。が、直ぐに口端を上げてやんわりと微笑む。
「はい。」
言葉数は少ない。だがそこが逆に面倒もない。存外居心地良く感じているのかもしれない。それに彼女はずっとネックレスのペンダントトップを手で包むように触れている。余程気に入ったと見える。顔も嬉しそうだ。それがどこか可愛く見えた。
公安局前で二人は降ろされた。常守は車を置きに駐車場へ向かった。雪がちらついている。は肩を震わせてコートのジップを一番上まであげた。首どころか顎まで隠れる。
「次はマフラーが必要だな。」
「そんなに貢がれても困りますよ。」
言いながらも彼女は笑っていた。こんな風に話せる子だとは、今日がなければ知らなかっただろう。狡噛は知っているのだろうか。
冷たい風が吹いた。宜野座もコートの首元を寄せる。
「ギノさんも必要ですね。」
「ん?」
「マフラー。」
「俺は持ってるから大丈夫だ。部屋にある。」