第14章 楽園事件:5
あまり高いものを買い与えても価値が分からなくなってしまうのではないか…そもそもコートを買ってやれたらと思っていたが全く違うものになっている。だが服に興味がないなら買っても仕方ない。それに時間もない。宜野座は手を上げて店員に合図した。ホログラムの店員がやってくる。
「お手にとってご覧になりますか?」
「いや、結構だ。これを買う。」
「ありがとうございます。」
店員のホロの下にいる接客用ドローンがショーケースの鍵を開けてそっと商品を取り出す。現物限りのようだ。スキャンして細かい傷がないかを確認してから丁寧に箱に入れている。包んだ商品と引き換えに支払いを終えたところでが大きな袋を持って戻ってきた。
「早かったな。」
「急いで戻ってきました。」
「ゆっくりでも構わないのに…さ、行こうか。」
宜野座が手を出すとは紙袋を渡す。彼女の目は一瞬、ショーケースに向けられた気がした。
入口に向かって歩き出す。
「どうだった?一日買い物に歩き回るのは。」
「疲れました…」
「まぁそんなものか。俺も久しぶりに人混みに出て疲れた。」
「ギノさんも?」
は隣の男を見上げる。すると彼も見下ろす。
「あぁ。なにも人混みが苦手なのはお前だけじゃない。でも今日はが居てくれたから助かった。ありがとう。」
「い、いえ。私こそ、連れ出してもらってありがとうございました…」
は恥ずかしさからか目をそらしてしまった。
それも彼女らしい。目はあまり合わせてこないが礼はきちんと言える子だ。
「おい、ちょっと待て。」
入り口を出た所で引き止める。あとは帰る車に乗るだけなのでもう渡してしまいたかった。
入り口の柱が丁度鏡面加工で映る仕様になっている。そこが丁度良い。の腕を引いて無理矢理柱の前に立たせる。
黙ってフードを外そうとすると拒まれた。
「なんですか!?」
「ちょっとだけ外してくれ。」
「なんでですか?」
「後で分かる。」
不安そうに後ろの宜野座を見上げる。前を向かせ目を閉じてもらった。袋から箱を取り出し、ネックレスを取り出して空になった箱を袋に戻した。チェーンは繋がったままだ。しかも手袋をした手では外しずらい。一旦手袋を外してからフックを外す。