第14章 楽園事件:5
が沈黙して、目を伏せた。
何か間違えただろうか。こういうとき狡噛だったら何て返したのだろう。
何と声をかけたらよいか分からない。別れ際はどう切り出すのが自然なのだろう。
「じゃあ、今日は本当にありがとうございました。」
顔をあげたに先を越された。何か胸のあたりがチクチクと痛む。
「あぁ、こちらこそ。気をつけて帰れよ。」
帰れと行っても彼女はどこに帰るのだろう。亮一のところ?
それも少し癪な気がする。
は黙って頭を下げるとフードを被りながら踵を返して歩き出した。
小さな背中が振り返ることなく遠くへ行く。
宜野座は何か言い残したことがあるような気がしていた。だがそれが何なのか分からない。この胸の違和感は何かをやり残した時におきるものだ。仕事の時に感じたものと似ているが人に対しては初めてだ。だから分からない。
彼女の姿が見えなくなったところで宜野座も官舎に戻った。