第14章 楽園事件:5
それも周りの接近する気配にも全く気が付かないほどの見入りようだ。今度はそんなことがないように、でも見ていたい。しかし今度は周りの足音や話し声を全部聞き取ってしまい頭の中が騒がしい。それでも目の前のそれは静かに輝いている。光を反射して眩しいほどだ。目が眩みそうになる。どうしたらいいだろうか、周りは煩すぎるし照明は明るすぎる。は目を瞑ってフードを深く被ってぎゅっと押さえた。すると後ろから肩をトントンと叩かれる。大きな手だ。どこか懐かしい。少しだけ振り向くと手の主は顔を覗き込んてきた。宜野座だった。
「どうした?大丈夫か?」
その声を聞いた瞬間、周りの声も足音も止んだ。照明は輝きを抑えた。あれは自分がそうさせていたのだと初めて気づく。やはりこういった空間に慣れないのだ。
「大丈夫です…終わったんですか?」
フードを押さえていた手をゆっくり外す。
宜野座は少しホッとしたような顔だ。
「いや、袖丈がやや短かかったので伸ばして貰ってる。十分あれば終わるらしい。もう少し待っててくれるか。」
「はい。」
は無意識にもう一度ネックレスを見る。それを宜野座は見逃さなかった。彼女の目線の先の物と彼女の目を見ればどう思っているのかはすぐに分かる。今日一日一緒にいてが初めて見せた表情だった。物に目を奪われていると言ったような表情。
「これが気になってたのか?」
確かに面白いデザインだ。何をモチーフにしたのだろう。
だがはネックレスから目をそらした。
「いえ、面白いなと思って…」
彼女にもそういう感情があると分かっただけでも宜野座にとっては連れてきた甲斐がようやく生まれる。
どうせのことだから買ってやると言ったところで全力で断るのだろう。
「、悪いがさっきの店で俺のスーツを受け取ってきてくれるか?」
「え…」
「他の用事を済ませてくるから。支払いも済ませてあるから受け取るだけだ。終わったらまたここで待ち合わせよう。」
「わかりました。」
少々不安そうな顔ではあるがは紳士服の店に向かって行った。その背を少し見送って、振り返ったり戻ってくることがなさそうであると確認してからケース内を見る。
(チェーンとセットで…さっ三十万円を軽く超えてる!なんのブランドだこれは…)