第14章 楽園事件:5
食事の後は帰るかと思えばまだあるらしい。再び三人は車に乗る。着いた先は百貨店だった。
また常守と別れて一時間後に戻ることを告げる。
今度は何を見るのかと聞けばもともとスーツの仕立てを頼んでいて仕上がったので寸法など確認のために直接出向いたようだ。今どきそこまで手間をかける必要はないのだが直接測って手直しするこどでよりしっくりくるのだという。
「どこか見に行ってるか?」
宜野座を待つ間は確かに暇だ。紳士服なんてには余計に縁がない。細かい手直しが入ればまた時間もかかる。同じフロアの近辺を見て回ることにした。
店に入る勇気はないので通路側の商品だけを眺める。時々触れてみたりも。触り心地も様々だ。店の店員は皆輝いて見える。スタイルも良いし、綺麗な服を綺麗に着こなしている。自分にも普通にほしい服を買って、それを着て出かけるような人生があったなら、どんな人になっただろう。
それも考えるだけ無駄かとすぐに止める。他の女性客は楽しげに商品を手に取っていた。男性と二人でショーケースを眺めている女性もいる。
あっちには何があるのだろう。店員が遠くにいることを確認してから近づいてみると、そのケースの中には小さくて金や銀色をしていて宝石がついていたりいなかったり。そして値段が高い。高級装飾品だ。照明の当たり方もあるだろうが、輝いていて美しい。それには思わず目を奪われる。デザインもみな違う。特に不思議な形をしたモチーフのネックレスから目が離せない。銀色の曲線に綺麗な小さい宝石が埋め込まれている。どうしてそれが気になるのかには分からなかった。だがとても興味がわく。
「良かったら手に取って見てみませんか?」
「!」
至近から声がかかり驚いて肩がびくつく。
顔を上げると女性店員だった。しかもよく見るとホログラム。過剰に驚いたことに恥ずかしくなって顔を伏せる。
そんなにかじりついてこのネックレスを見ていたのだろうか。
「あ、大丈夫…です…」
「かしこまりました。直接ご覧になりたいときはお声がけください。」
女性店員は丁寧にお辞儀すると、他の客の所へ行った。あっちは手を上げて呼んでいた。買うのだろうか。
またネックレスを見つめる。魔法がかかっているようだ。こんなに眺めていられるものがあったのかと思う。