第14章 楽園事件:5
本当に分からない。宜野座はいつも店員がべた褒めしてきて気分が良くなって買うパターンが多い。おかげでジャンルにあまり統一性がない。
自分でこれがいいと思って買ったことなんてあっただろうか。
「じゃあ、上に着るのと下に履くものだったらどっちが欲しい?」
「うーん。上に着るものの方がいいかもしれん。」
「上着?それとも中に着るもの?」
「上着はまだ着れるものがあるから、中に着るものか…」
これは誘導されているのか。だが目的が明確になっていく。まだ寒いし、厚手の物なんかいいな。そう考えるようになり、目につくものがそれに変わる。侮れん女だ。
店には厚手のパーカーやニットなんかが豊富に出ている。ここからまた絞るのも大変だ。
「これ似合いそう。」
そう言ってさっと指差す。三段ある棚の二弾目にひっそりあるそれはグラデーションボーダーのニットだった。色も落ち着いている。自分では選ばない物だ。だから新鮮だった。とりあえず試着室で着てみる。ウール混のニットでグラデーションだけでなく他のカラーや無地にも対応していた。
ホロでいくつか切り替えてみる。なかなかデザインも豊富だ。価格も手頃だし意外と着心地がいい。
一応連れにも確認する。
「どうだ?」
「いいと思う。」
表情は相変わらずだが肯定されたのだから本当なのだろう。
歯に絹着せぬ物言いにも慣れれば清々しいものだ。
宜野座はそれを購入した。
時間はまだ少し残っていたが早めに戻ることにする。
「買えて良かったですか?」
が小走りでついてきて見上げてくる。歩調があっていなかったことに今更気がついた。宜野座はスピードを落としてゆっくり歩く。
「あぁ、着いてきてもらって正解だった。ありがとう。」
そう言うと彼女の瞳が柔らかく微笑んだように見えた。それを見るとつい頬が緩む。
「お腹空いただろう?そろそろレストランも混まない時間だ。何か食べに行こう。」
常守に戻ることを伝えると彼女は建物の前に車を付けていた。来たときと同じように宜野座は後部座席のドアを開けてを座らせて、ドアを閉める。そして自分は反対側の後部座席から入る。
「次はお食事でいいんですよね?」
運転手が行き先を確認する。宜野座はデバイスに登録したナビを転送した。
「この店まで頼む。」
「はい。発車しますよー」