第14章 楽園事件:5
大型のショッピングモールにつくと宜野座とは車を降りた。2時間で戻るのを約束し、二人は先に中へ入る。本来は常守の同伴が必要だが今回は特例として遠くから見守るのみになった。もちろん表向きは同伴と報告しているが。常守自身、遠くからデートを観察するのは悪い気ももちろんあるが、どちらも知っている二人なだけあって楽しんでいた。
まるで潜入捜査だ。
三百メートル程距離をとって追跡を続ける。客に紛れて、周りに溶け込みながら。
一方の宜野座とは通路を歩くだけで店に入らない。
好きなところを見ていいと彼女には説明したが見渡すだけで精一杯なのか店には足を向けない。
「どうした?気になるものがあったら行っていいんだぞ?」
「そんなこと言われても…」
これだけ大勢の人がいて、綺麗な店が並ぶ空間に自分を置くことに慣れていない。昔行ったレストラン以来かもしれない。
「あれなんてどうだ?に合いそうだ。」
宜野座が指差すのはウインドウにワンピースとウールのコートをきたマネキンがポージングしている若い女性向けの洋服屋だった。合いそうだと言われてもにはピンとこない。
「どうでしょうね。」
「ああいうのは嫌いなのか?」
「嫌いもなにもないです。よくわからない。」
「……。」
難しい。好みがないというのは選択肢が広がる代わりに決める要素もない。これでは無理に勧めるだけ自分が消耗する。
「ギノさん、欲しいものがあったんじゃないですか?」
そうだ、付き合ってくれと頼んだのだから用事があると思われて当然だ。
「あぁ、たまには私服を新調しようと思ってな、見立ててくれるか?」
「頼む人、間違ってますよ。」
何も言い返せない。確かに間違ってる。だんだん苛々してきた。
「じゃあ、似合うかどうか意見を言ってくれ。」
「わかりました。」
二人はメンズ服の取り扱いが多い二階のフロアへ登った。エスカレーターにはを先に乗せる。
デートの時にエスカレーターの上りは女性が先、下りは男性が先だと事前に予習した。だがこれが何を意味しているかなんて彼女には全く通じていなかった。