第14章 楽園事件:5
「おはようございますさん。今日は私は運転手なのでよろしくお願いします。」
常守は挨拶も早々に発車しますよ、と車を動かした。とはいえ自動運転で行き先はすでにナビに入っているようだ。
「どこに行くんですか?」
は隣に座る宜野座にアンバーの瞳だけを向ける。
「行けば分かる。」
宜野座はただ前だけを見ていた。やや微笑んでいるようでもある。はまたフードを深く被ってシートに沈んでいった。何か話題を振らないと寝てしまいそうだ。
「変なことを聞くがその服は…」
その先をどう続ければいいのか詰まっていると。
「適当に調達したものです。」
「調達って…まさか他人の物じゃないだろうな。」
「多分、市販になるもののサンプルですよ。…これでもキレイな物選んだつもりです。」
「いや、別に小汚いとか思ったわけでは…」
「なんとでも言ってください。」
思わぬ流れに持っていってしまった。の表情はフードについたファーで見えない。怒っているだろうか、それも分からない。
「好みはあるのか?」
「好み?」
「服装の好みだ。」
「着れればなんでもいいです。」
「お前には拘りというものはないのか…」
「拘ったところで何になるんです?」
彼女は無戸籍。仕事も家もお金もない。その場しのぎで暮らしている。そういう部類の中ではいつ出会っても清潔感があるのは白さのせいだろうか。それでも身につけるものはどこか汚れがあったりしていた。好きなものを買って身につけて行けるようなところもないだろう。自分も然りだ。執行官で外出は同伴が必要。どこへでも行けるわけではない。自由がない。金とサイコパスがあってもそこは潜在犯。拘る意味を見いだせないのは仕方ないかもしれない。宜野座自身、ファッションに対して拘りはなかった。ただブランドで固めておけばどうにかなると思っていただけだ。
「そうだな…」
そうとしか言えない。こうなると今回の外出の意味はなんなのだろう。運転席では何も言わない運転手に徹している常守がバックミラーから心配気に二人を見ていた。先が思いやられる。
(頑張って!宜野座さん!)